イーオン・フラックス

2006/02/24 GAGA試写室
シャーリーズ・セロン主演のSFアクション・ドラマ。
世界観のわりにドラマが薄っぺら。by K. Hattori

 『モンスター』でアカデミー主演女優賞を獲得したシャーリーズ・セロンの最新作は、91年から95年までMTVで放送された同名SFアニメ・シリーズの実写版。原作アニメは『アレクサンダー戦記』のキャラクターデザインや『アニマトリックス』の一部エピソードに参加した韓国系のアニメ作家、ピーター・チョンが手がけていたもの。今回の映画はその世界観やキャラクター設定をベースにして、まったく新たに作られたもののようだ。監督は2000年にミシェル・ロドリゲス主演の女性ボクシング映画『ガール・ファイト』を撮ったカリン・クサマ。彼女はIMDbを見ても『ガール・ファイト』以降は特に作品が存在せず、この映画が第2作目という大抜擢だ。

 新種の疫病で人類のほとんどが死滅した未来の地球。天才科学者トレバー・グッドチャイルド開発のワクチンでわずかに生き残った人類は、ブレーニャと呼ばれる人工都市で暮らしていた。そこは人類に残された最後の楽園。都市運営の実権はグッドチャイルド家と側近たちが握り、数百年に渡って安定した統治が実現している。だがそんな楽園の中にも、反抗分子たちがいた。モニカンと呼ばれる反政府組織はグッドチャイルド家に反旗を翻し、ブレーニャに隠された陰謀を暴くため戦っていたのだ。モニカンの中でもエリート中のエリートとして知られる女性兵士イーオン・フラックスは、グッドチャイルド家の総帥トレバー8世を暗殺すべく、政府庁舎の中枢へと侵入するのだが……。

 物語は人工都市ブレーニャの中だけで展開するわけだが、人類はこの人工都市にだけ生存できるという設定だから、ブレーニャの存亡は人類の存亡に関わっている。全人類が生きるか死ぬかという瀬戸際が、『イーオン・フラックス』という映画の背景だ。しかしこれだけの大風呂敷を広げたわりに、映画の内容はせせこましい。殺された妹の敵討ちだの、兄弟同士の確執だの、世代を超えた男女のラブストーリーだの、人類全体が生き延びるか滅びるかという瀬戸際にいるとは思えないほど、のどかなドラマ展開なのだ。映画にロマンスを絡めるのは構わないが、それはこの映画の場合、大きなドラマの中に散りばめられたスパイス程度の役割に抑えておくべきではなかっただろうか。人類全体の問題が論じられているときに、ヒロインが男とイチャイチャしているというのは考えものだ。

 ベルリンでロケしたという未来都市の風景や、デジタル技術で作られた各種のアクションなど、見どころと言えそうな場面もないわけではない。しかしこの映画にはSFドラマとしての面白さがあまり感じられず、アクション映画に不可欠な活劇の快感もあまりない。女性監督がヒロイン映画を撮るのだから、もっとヒロインの心情に寄ったウェットな描写で特徴を出すなどすればいいのに、そうした余地もあまりなかったようだ。作り手の意図がよく見えない、中途半端な映画になってしまった。

(原題:Aeon Flux)

3月11日公開予定 日劇1ほか全国東宝洋画系
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2005年|1時間33分|アメリカ|カラー|シネスコ|ドルビーSR、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.aeonflux.jp/
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