燃ゆるとき

2006/01/12 東映第1試写室
高杉良の実名経済小説が原作のサラリーマン映画。
中井貴一の誠実さが光る。by K. Hattori

 高杉良の実名経済小説「ザ・エクセレント・カンパニー/新・燃ゆるとき」と「燃ゆるとき」を原作に、アメリカに進出した日系食品メーカーの社員たちが、仁義なき経済戦争に巻き込まれる様子を描いていく。原作ではカップ麺業界で「赤いきつね」や「緑のたぬき」などのマルちゃんブランドを展開する東洋水産が実名で登場するが、映画では「東輝食品」という仮名に変更されている。物語の時代背景も「20世紀終盤」と曖昧にぼかしてあり、これが実話をもとにしたフィクションであることを示唆している。東映としては『金融腐蝕列島〔呪縛〕』に続く、高杉良原作のサラリーマン映画だ。

 日本有数のカップ麺メーカー東輝食品だが、アメリカに設立した現地子会社サンサン・インクは、ライバルメーカーの市場参入で業績が悪化していた。サンサンの新社長に任命された深井は徹底したコストダウンと新商品開発でこの危機を乗り切る方針を打ち出し、同時期に渡米した資材担当の川森も商品開発担当者と共に新しいカップ麺を生み出す創意工夫を始める。こうして誕生した新商品の「チキン&レモン味」は大ヒット。しかしその足元を狙い撃ちするように、川森は信頼していた女性アシスタントから虚偽のセクハラ容疑で訴えられてしまう……。

 物語は日本企業のアメリカでの成功を描く「プロジェクトX」風のサクセスストーリーだが、ドラマの中心にあるのは、アメリカ流のなりふり構わぬM&A(企業買収)の手口だ。業績不振の会社を安く買い取るだけがM&Aではない。相手の弱みにつけこんで会社を乗っ取る。弱みがなければそれをでっち上げる。それでも駄目なら、外部から人を送り込んで内部から組織の弱体化を狙う。そこには公正さも正直さもない。強いものが勝ち、弱いものが負けるのが経済の原則であり、それが怠慢な経営者や弱体化した会社を淘汰する市場のダイナミズムを生み出し、ひいては消費者への利益還元になるというのが経済の原則かもしれない。しかしその裏では、市場での競争ではなく、合法的な手段なら何でも使って相手の足を引っ張ろうとする策謀が渦巻いているのだ。

 そこでは弱みを見せた者が、即座に息の根を止められる。知らなかった、不注意だった、ウッカリしていたでは済まされない、過酷な企業間戦争の実態だ。しかもそこでは敵の正体が、まったく見えなくなっている。姿を見せない敵が、容赦なく相手の弱みにつけこんでくる恐さと不気味さ。日本企業が国際化することで、初めて出会う世界はなんとも恐ろしいところなのだ。

 中井貴一が真面目で仕事熱心な川森潔を好演している。会議の場で周囲から浮き上がってもただひとり正論を吐き、取引先の開拓には体当たりで挑み、部下を思いやる配慮もあり、家族と会社を愛し、海外への単身赴任も残業も厭わないニッポンのサラリーマン。中井貴一が「真面目な男」を演じると、その誠心誠意さが嘘にならないのがいい。

2月11日公開予定 丸の内TOEI1ほか全国東映系
配給:東映
2005年|1時間54分|日本|カラー|ヴィスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.
ホームページ
ホームページへ