スタンドアップ

2006/01/11 ワーナー試写室
男社会である鉱山でセクハラ訴訟を起こした女たち。
実話をもとにした女性ドラマ。by K. Hattori

 アメリカでは40年ほど前まで、社会の中で当たり前のように黒人差別が行われていた。公民権運動などの成果もあって1970年代以降は黒人の地位が大きく向上した結果、今この時代に、黒人は白人に比べて知的能力が劣っているとか、黒人は白人の補助的な地位にあるべきだなどと言えば、それはひどい差別主義者だと糾弾されることになるだろう。しかし同じような差別と人権侵害は、時代が変わっても別の場所で再生産される。そのひとつが、職場に置ける女性に対する性的嫌がらせ(セクシャル・ハラスメント/セクハラ)だ。

 セクハラ問題はフェミニズム運動の高まりの中で、アメリカでは1970年代から社会問題とされてきたという。しかしそのアメリカでさえ、本格的な社会問題として認識されるのは80年代になってからのことであり、日本ではアメリカ進出した日系企業が現地で訴えられるなどの形で、90年代からようやく新しい社会問題、人権問題として意識されるようになってきた。この映画『スタンドアップ』はセクハラという言葉にまだ人々の馴染みがなかった80年代末に、アメリカで実際に起きたセクハラ集団訴訟をもとにしたドラマだ。

 80年代のアメリカではアファーマティブ・アクション(積極的差別是正策)の一環として、それまで女性と縁のなかった職場にも、一定数の女性を雇用するよう事業主に義務が課せられるようになった。映画の主人公ジョージーは、女手ひとつで子供ふたりを養うため故郷に戻り、それまで伝統的に男たちの職場とされてきた鉱山で働き始める。だがそこで彼女を待ち受けていたのは、男たちからの卑猥な軽口やボディタッチ、更衣室への進入や持ち物へのいたずらに始まる、ひどい嫌がらせの数々だった。会社は女性の雇用を義務づけられているが、女性を歓迎しているわけではない。嫌がらせに耐えかねて女性が辞めるな、それの方がよほどありがたいのだ。「文句を言わずに働け。文句を言うなら辞めろ」という職場の中で、ほとんどの女性は嫌がらせに耐えている。

 映画は主人公の独白から始まるが、やがてこれが裁判の中で語られる主人公の証言であることがわかり、映画全体が法廷ドラマという枠組みを持っていることが明示される。しかし映画は「回想形式」という形をあえて取らず、映画の中の現在点はあくまでも、主人公ジョージーの体験と同期している。裁判シーンがフラッシュフォワードとして挿入されて、物語の進展を助けたり、説明を省いたりする。映画の中には短いフラッシュバックや回想シーンも使われるなと、時制の点ではかなり複雑な構成になっている。脚本を書いたのはマイケル・サイツマンで、これはノンフィクションを原作としたほぼオリジナルと言っていいだろう。

 原題は『North Country(北の国)』。これは女性へのアパルトヘイト政策を行っていた「男たちの独立国」が、女たちの手で崩壊していく物語だ。

(原題:North Country)

1月14日公開予定 サロンパスルーブル丸の内ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2005年|2時間4分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SR・SRD・DTS・SDDS
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/standup/
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