白バラの祈り

ゾフィー・ショル、最期の日々

2005/12/09 映画美学校第1試写室
「白バラ」の紅一点S・ショル処刑までの6日間を、
資料にもとづき再現した意欲作。by K. Hattori

 1944年7月のヒトラー暗殺未遂事件は知られていても、それに先立つ白バラ運動について知る日本人は少ないだろう。1943年2月18日。ミュンヘン大学校内で違法な反政府ビラを撒いた容疑により、同大学医学部の学生ハンス・ショル(24)と、その妹でやはり同大学の学生だったゾフィー・ショル(21)が逮捕された。ふたりは前年から市内各所に郵送されていた反政府ビラ「白バラ通信」との関わりを認め、兄妹逮捕の直後に逮捕されたクリストフ・プロープスト(23)と共に逮捕からわずか4日後の2月22日に裁判で死刑判決を受ける。3人は執行猶予なしに即日処刑された。

 「白バラ抵抗運動」と呼ばれるこのささやかな反政府運動では、3人の友人や家族など多くが逮捕拘束されて取調べを受けたが、最終的にショル兄妹を含む6名が処刑されている。他の3人は、アレクサンダー・シュモレル(25)、ヴィリー・グラーフ(25)、クルト・フーバー(49)だ。(年齢はすべて処刑時のもの。)最年長のフーバーはミュンヘン大学の教授で、ショル兄弟らの行動に共感して42年12月から運動に参加していた。

 白バラの活動については1982年に西ドイツで『白バラは死なず』という映画が製作され、日本でも公開されたが僕はこれを観ていない。僕が白バラ運動を知ったのはショル兄妹の姉インゲ・ショルの「白バラは散らず」や、山下公子の「ミュンヒェンの白いばら―ヒトラーに抗した若者たち」といった本を通してのことだ。たぶん今から15年以上前のことだと思う。その後もショル兄妹や白バラのことは頭の片隅にずっと残っていたので、今回この映画『白バラの祈り』に出会えたのは嬉しかった。

 映画は処刑された白バラ・グループの紅一点であり、年齢ももっとも若かったゾフィー・ショルを主人公にして、彼女が死を迎えるまでの6日間を時系列に再現している。逮捕前日まで続けられたビラの印刷、翌日の大学での逮捕、数日に渡る取調べ、形式だけの裁判、そして処刑までだ。映画は白バラ運動の成り立ちについてまったく説明をしないのだが、取調官とのやりとりを通じてその内容がわかるようになっている。この映画を作るにあたっては、旧東ドイツで保管されていた尋問調書が参照されているという。ゾフィーと取調官モーアのやりとりの多くは、事実に沿った忠実な再現なのだ。

 見どころは逮捕され取調べを受けているはずのゾフィーが、毅然とした態度で逆に取調官を追い詰めていく場面だろう。椅子に腰掛けて背筋を真っ直ぐに延ばし、取調官に向かって自分の信念に従った証言をするゾフィーに対して、取調官は落ち着きなく歩き回り、時として不安そうな表情さえ見せる。同じことはハンスが裁判長に反論する場面でも見られる。そこではヒステリックに叫ぶ裁判長が、落ち着いた態度のハンスたちに裁かれているのだ。

(原題:Sophie Scholl - Die letzten Tage)

2006年新春公開予定 シャンテシネ
配給:キネティック
2005年|2時間1分|ドイツ|カラー|ドルビー
関連ホームページ:http://www.shirobaranoinori.com/
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