カミュなんて知らない

2005/10/07 映画美学校第2試写室
大学生たちがゼミの実習で映画を製作するのだが……。
随所にある仕掛けに映画ファンはニヤリ。by K. Hattori

 大学で「映像ワークショップ」を受講している学生たちが、実際の事件をもとにして1本の映画を作り始める。ところが映画作りの現場では、じつにいろんなことが起きるもの。主演俳優の選定から、演出プランの決定、予算管理、そこに若い撮影チーム内部で起きる恋愛にまつわるゴタゴタ(監督の恋人を演じた吉川ひなのが、恐いぐらいツボにはまった演技を見せる)や、学生にとって重大事である就職問題、さらに指導教授の美人女子学生に対する執着心などが絡まりあっていく……。

 監督・脚本は『さらば愛しき大地』『火まつり』の柳町光男。95年の『旅するパオジャンフー』以来10年ぶりの新作だ。監督は早稲田大学で3年間客員教授をしていた経験があり、そこで実際に学生の映画製作を指導していたという。この映画には、その経験が十分に生かされているのだろう。ただし映画が撮影されたのは早稲田ではなく、池袋にある立教大学キャンパス。映画製作チームの若者たちは当たり前のように映画に詳しいのだが、じつは今どき、これほど映画を観ている学生はほとんどいないはずだ。(これは都内のとある映画専門学校で講師をしている僕の経験による。)この映画に登場する学生たちは、現代の大学生の気風を十分に取り入れつつ、監督の理想とする、あるいは監督自身が同じ年頃の頃に存在したであろう「映画好きの学生」をモデルとしているように思う。

 映画は「映画を作る学生たちの姿」を描く外殻部分と、映画の中で作られる「実際の殺人事件をもとにした映画」の部分で構成されている。劇中映画のもととなった実際の事件とは、2000年5月に起きた愛知県の主婦殺人事件だ。逮捕された17歳の高校生が、「人を殺す経験をしてみたかった」と供述したことが話題になった事件だ。映画を作っている学生たちは年齢的にこの犯人とほとんど変わらないので、映画を作っているスタッフたちは映画作りを通して犯人の少年と向かい合うことになる。この映画のそもそもの狙いは、映画作りと劇中劇という構造を通して、現代の若者たちの心の内を浮き彫りにしていくことだったのかもしれない。

 しかし出来上がった映画の中では、この二重性は表面上まったくその役目を果たしていない。学生たちは自分たちと同世代の若者がつい数年前に起こした殺人事件を自らが再現しながら、それでいて犯人の少年と自分たちとの間になんの接点も見つけられないでいるのだ。他人とつながりが持てない若者たちの、とらえどころのなさい不安定さ。しかしこの「他人とつながりが持てない」という点で、映画を作っている若者たちと、劇中劇の高校生は手を取り合っている。自分が殺した被害者にまったく感情移入しない犯人の少年と、周囲の人々とごく希薄な人間関係しか作れない学生たちの、なんとよく似ていることか。これが最後の映画ロケ撮影の場面で、衝撃的な効果を生み出すのだ。

06年お正月公開予定 ユーロスペース
配給:ワコー、グアパ・グアポ 宣伝・問い合わせ:グアパ・グアポ
2005年|1時間55分|日本|カラー|ヴィスタサイズ(1:1.85)|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.camusmovie.com/
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