フランク・ミラーの同名コミックを、ミラー本人とロバート・ロドリゲスの共同監督で映画化したバイオレンス・アクション映画。特別監督としてクエンティン・タランティーノも一部を監督しているらしい。その監督料はなんと1ドルだったとか……。コミック作家である原作者のミラーが、どのような形で映画に参加しているのかはよくわからないが、現場で強い発言力を持ったプロデューサーといった感じなのかもしれない。全体としては、これはロバート・ロドリゲスの監督作と言って構わないと思う。
映画の特徴は全編が艶のあるモノクロームの映像で描かれ、そこにポイントとして赤や黄色などの原色があしらわれていることだ。女のドレスや唇。輝くブロンドの髪。悪党の不気味な黄色い肌。こうしたパートカラーの映像が、映画に現実とは違った輝きを与えている。モノクロ1色に特色1〜2色という、きわめてグラフィカルな世界。印刷物のようなこの映像世界を生み出すために、最新のデジタルテクノロジーが使われている。じつにカッコイイ! このあまりにもユニークな映像は、ちょうど『マトリックス』がそうだったように、今後多くの模倣を生み出すに違いない。
物語は3人のヒーローが活躍する全3話のオムニバス構成。エピソードそれぞれが一人称のモノローグで語られる、典型的なハードボイルド・スタイルだ。主人公となる3人は、それぞれに自分の決めた道を歩む男たち。しかし必ずしも彼らが正義の人とは限らない。第1話の主人公は仮釈放中の大男で、ちょっとしたことですぐに人を殺してしまう乱暴者。第2話の主人公は死刑判決を受けている脱走犯。第3話の主人公は不正と戦う警官だが、法で罰せない悪に法の権限を超えて立ち向かう時点で、もう法をはみだしたアウトローになってしまっている。3人とも個性的なキャラクターで、まったく似ても似つかない。だが共通しているのは、彼らが自分の愛する美しい女たちのために命を賭けることだ。この映画はバイオレンス描写の裏に、純度の高いラブストーリーを抱え込んでいるのだ。
「愛する女のために命懸けで敵と戦う」という古風な男たちのモラルを描くために、この映画はシン・シティという凝った舞台装置を用意しているとも言えそうだ。現実の世界では男性と女性の力関係や立場に違いがなくなり、男の女に対する優しさや、女を守るために時として暴力も辞さない騎士道精神などは成立しにくくなっている。かつては男たちの当然のモラルとされていた「女を守る」という価値観を、この映画の中で久しぶりにかいま見た気がする。なんだかそれが、とても新鮮で気持ちいいのだ。
しかもこの映画に登場する女たちは、ただ男に守られるだけのか弱い存在ではない。第2話に登場するオールド・シティの女はその象徴だ。男も女も愛する者のために命を賭ける。シン・シティはそんなおとぎの国なのだ。
(原題:Sin city)
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