亡国のイージス

2005/07/14 日本ヘラルド映画試写室
最新鋭のイージス艦が反乱を起こし日本に宣戦布告。
阪本順治監督の骨っぽさが生きた。by K. Hattori

 福井晴敏の同名ベストセラーを、阪本順治監督が映画化したアクション映画。海上自衛隊のイージス艦「いそかぜ」が、演習中に突然反乱を起こした。外部の工作員と通じて艦を乗っ取った副長の宮津は、米軍が秘密裏に開発した化学兵器をミサイルに搭載し、東京都心部に狙いをつける。反乱と無関係な乗組員がすべて艦を降ろされたあと、ひとり艦に戻った先任伍長の仙石は、反乱を食い止めるため艦に送り込まれていた如月と共に、反乱部隊に抵抗を試みるのだが……。

 タイトルになっている『亡国のイージス』とは、劇中に登場する論文のタイトルという設定だが、そこで批判されているのは平和ボケしている現代の日本だ。物語の中では「現代日本は命を懸けて守るに値するか否か?」という問いがなされるが、映画はこれをあまり深追いせず、反乱軍の動機付けに使う程度に抑えている。また劇中の紅一点となる工作員ジョンヒも、「原作に出ているからとりあえず出さないとな〜」程度の扱いだ。映画としては、ジョンヒが出てくる必要なんて一切ないもんな。こうして映画はひたすら、仙石・如月コンビの孤独な対テロリスト戦闘というアクションに流れていく。

 そして出来上がったのは、イージス艦を舞台にした和製『ザ・ロック』だった。サンフランシスコ湾の小島から化学兵器を積んだミサイルをぶっ放すという話が、東京湾から化学兵器を積んだミサイルを撃つ話になる。反乱を起こした将校と部下たちの関係も、『ザ・ロック』によく似ている。これと戦うのは、年寄りと若者のコンビ。違いはいろいろあるけれど、ハリウッドのアクション大作がちゃんと日本の映画になっているのは大したもの。『KT』で実録政治サスペンス映画に挑んだ阪本順治監督の、硬派な演出が心地よい。情緒的なところを削って、得意の活劇に徹しているのがよかった。

 残念なのは反乱軍のリーダーを演じた寺尾聰に、軍人のカリスマ性があまり感じられなかったこと。これだと反乱の動機が、息子を失った八つ当たりのように見えてしまう。自分自身の信念のため、あえて国家への反逆という道を選択した男の悲壮な姿がそこには見当たらない。寺尾聰演じる宮津は、息子の死に茫然自失し、外国の工作員の口車に乗せられて愚かな企てをした、真面目で小心な男にしか見えないのだ。こんな男に、本当に部下たちが付いていくのか? 艦を首尾よく乗っ取ったあとも、まるっきりヨンファたち工作員の言いなりではないか。

 逆に素晴らしかったのは中井貴一だ。「祖国のため」という大義のためなら、あらゆる行為を正当化でき、あらゆる犠牲に耐えられる男を、少しの甘さも見せずに演じきっている。このヨンファという工作員のキャラクターがあまりに強烈なので、寺尾聰の宮津が弱く見えてしまうのかもしれない。そしてこの映画一番の収穫は、如月役の勝地涼だろう。意思の強そうな眼差しがいい!

7月30日公開予定 丸の内ピカデリー1ほか全国松竹東急系
配給:日本ヘラルド映画、松竹
2005年|2時間7分|日本|カラー|スコープサイズ|DTS
関連ホームページ:http://aegis.goo.ne.jp/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ