宇宙戦争

2005/06/29 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ1)
ウェルズの古典SF小説をスピルバーグが映画化。
スペクタクル描写は一見の価値あり。by K. Hattori

 H.G.ウェルズが今から100年以上前に書いた古典SF小説を、スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化したスペクタクル大作。同じ原作は1938年にオーソン・ウェルズがラジオドラマ化して全米にパニックを起こし、1953年製作のバイロン・ハスキン監督作はSF映画の古典になっている。1996年の大ヒット作『インデペンデンス・デイ』も、アイデアはウェルズの小説からの無断借用だろう。じつは今回の映画も含め、これらの作品にはすべて共通点がある。それは19世紀末のイギリスで書かれた小説の舞台を、すべてその時々のアメリカに置き換えていることだ。今回の映画も、いかにも現代のアメリカ映画となっている。

 主演はトム・クルーズ。今回の映画の主人公は、宇宙人来襲に立ち向かう科学者や軍人ではなく、まったくの一般市民だ。普段は離婚した妻と暮らしている子供ふたりと週末を過ごすことになったレイは、突然町の地下から現れた巨大マシーンに人々が虐殺される場面に遭遇する。レイは子供たちと町を逃げ出し、子供たちの母親がいるボストンへと向かう。だがその途中にも、巨大マシーンは次々に現れる。軍隊が出動するが、人間の武器は巨大マシーンにまったく歯が立たない。映画は主人公たちが移動していくロードムービー形式で、突然の攻撃にさらされたアメリカ社会のパニックを、視点を変えながら立体的に浮き彫りにしていく。特撮と特殊効果、それにスピルバーグ一流のアクション演出の相乗効果で、人類史上未曾有の脅威を一緒に体感しているような迫力が生まれている。(僕が観た劇場は音響が良くなかったのだが、音響のいい環境で観ればさらに迫力は増すはず。)

 離ればなれになった家族が最後に再会するという大まかな話の流れと、途中で最高のサスペンスを生み出す廃屋のエピソードなど、映画は大きな話の流れでウェルズの原作に忠実。しかし登場する被災地の細かな描写は、明らかに9.11テロを意識したものだろう。最初のマシーン登場現場から命からがら逃げてきた主人公が、細かなホコリをかぶって真っ白になっている場面や、不明家族の安否を尋ねる張り紙の列は、9.11テロのニュースでよく見たものだ。宇宙人が空からではなく地中から侵略を開始するのは、9.11が空からの攻撃だったから、その二番煎じを避けたのだと思う。『宇宙戦争』は荒唐無稽なフィクションだが、そこで起きていることは現実そのものなのだ。

 最初から最後まで人間は宇宙人に何の抵抗できず、最後はたまたま運良く助かる……というのがウェルズの原作。映画もその大筋は守るのだが、主人公の機転でマシーンが破壊されるとか、半死半生状態のマシーンに軍隊が反撃するなど、やられっぱなしの人間たちが欲求不満を解消できるカタルシスも用意してある。これがないと、娯楽映画としては締まりがないということかもしれない。

(原題:War of the Worlds)

6月29日公開 日劇1、日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系
配給:UIP
2005年|1時間57分|アメリカ|カラー|1.85:1
関連ホームページ:http://www.uchu-sensou.jp/
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