マイ・ファーザー

2005/05/25 TCC試写室
ナチスの戦犯ヨゼフ・メンゲレの晩年を描く実録映画。
チャールトン・ヘストンがメンゲレ役。by K. Hattori

 第二次大戦中にナチスは数多くのユダヤ人を殺した。ポーランドのアウシュビッツ収容所では医師のヨゼフ・メンゲレによって膨大な数の人体実験が行われ、収容者たちに死にも優る苦痛と恐怖を与えていたという。「死の天使」と恐れられた彼だったが、ドイツ敗戦後は戦犯追求の手を逃れて南米に逃走。その後は支持者たちの庇護のもと、ついに逮捕されることなくその生涯を閉じた。メンゲレの死が明らかにされたのは1985年。死から6年後のことだった。彼の墓は掘り返されて遺骨の鑑定作業が始まるのだが……。

 メンゲレは実在の人物であり、ユダヤ人組織による大規模なナチス残党狩りから逃げおおせた人物として伝説になっている。メンゲレに限らず、戦後は数多くのナチス戦犯が南米に逃げ込んだ。(ナチス親衛隊の司令官だったアイヒマンが逮捕されたのもアルゼンチンだ。)追求を逃れて南米に姿を消したナチスは人々の中で伝説化し、映画の中でも格好の悪役になった。ヒッチコックの『汚名』に登場するのもナチスだ。特に最後まで捕まらなかったメンゲレは、伝説化の度合いがはなはだしい。『マラソンマン』には彼をモデルにした医師が登場し、『ブラジルから来た少年』ではグレゴリ−・ペックがメンゲレ本人を演じていた。

 本作『マイ・ファーザー』はそんなメンゲレの晩年の実像を、事実に基づいて描く実録映画だ。映画の脚本にも参加した原作者のペーター・シュナイダーは、1985年に雑誌に発表されたメンゲレの息子のインタビュー記事から小説を書いたという。メンゲレの息子は1977年に父と対面し、苦痛に満ちた短いひとときを共に過ごすことになる。(なお劇中では息子の名が「ヘルマン」になっているが、これはおそらく本名ではないだろう。)

 この映画でメンゲレを演じているのは、往年の大スター、チャールトン・ヘストンだ。年老いたとはいえ(そしてアルツハイマーを患っているとはいえ)、そのオーラは未だに健在。鋭い眼光と相手を威圧するような抜群の存在感が、人間の中から生まれた怪物メンゲレとぴったり重なり合う。メンゲレが彼の罪を糾弾する息子と1対1で対決する場面は『ボーリング・フォー・コロンバイン』でマイケル・ムーアと対決するシーンを思い出させるし、映画の中ではメンゲレとチャールトン・ヘストンという俳優が一体化しているような印象さえ受ける。

 ただしこの映画、印象としてはかなりとっ散らかってゴチャゴチャしたものだ。メンゲレは一種の怪物だからその心の内が理解できなくても構わないのだが、息子のヘルマンが父と出会って何を感じたのかが、結局のところよくわからない。F・マーレイ・エイブラハム演じる記者はユダヤ系という設定らしいが、死の天使の息子とユダヤ人記者の対決という構図に、あまり緊張感がみられないのも不思議。ヘストンは最高だが、映画は二流だと思う。

(原題:My Father, Rua Alguem 5555)

7月2日公開予定 銀座シネパトス
配給・宣伝:アルシネテラン
2003年|1時間52分|イタリア、ブラジル、ハンガリー|カラー|1:1.85|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://blog.melma.com/00137621/
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