フォーガットン

2005/05/17 UIP試写室
ある日突然、息子の思い出を奪われた母親が見た真実とは?
物語にもうひとひねり欲しかった。by K. Hattori

 テリーは悲しみから立ち直れなかった。サマーキャンプに出かける9歳のひとり息の乗った小型飛行機が、忽然と姿を消してもう1年以上がたっている。それでも彼女は、息子を失った事実を受け入れられないのだ。アルバムやビデオを持ち出しては、過去の思い出に浸る日々。だがそんな彼女に、ある日突然異変が起きる。家の中から、息子サムにまつわる一切の品々が消えてしまったのだ。きっと夫が隠したに違いない。だが半狂乱になるテリーに夫は、「僕たちに子供はいなかった。君はこれまで死産した子供が無事成長したという妄想にとりつかれていたのだ」と告げる。そんな馬鹿な! テリーは図書館で過去の新聞を検索するが、行方不明事件の記事は見当たらない。同じ飛行機で娘を失った男を訪ねても、彼は「自分には娘などいない」と言うばかりだった……。

 物語のスケールが大きい割には、上映時間が1時間半強というコンパクトサイズ。これは映画全体が、たったひとつのアイデアだけで作られているからだ。ある日突然自分の家族が「最初からいなかった」ことにされてしまうという発想は面白い。しかしそこから、ヒロインが考えつくような結論を導き出すのはやはり性急すぎるのではないだろうか。まずはもう少し穏当な理由を導き、それを次々否定してから最後の結論に向かう方が話としては盛り上がると思う。主人公が心の病だったという説を最初から否定するのではなく、映画を観る人たちに「もしかしたら本当に病気だったのか?」と思わせる瞬間が欲しいのだ。あるいはすべてが入念に作り込まれたお芝居だったと思わせるとか……。

 この映画に必要なのは、「X-ファイル」におけるスカリー捜査官だと思う。主人公の荒唐無稽な主張と直感に頼る推測に対して、常に批判的な視線を向けつつ真相究明に協力するパートナーがいないと、映画を観ている側は「おいおい、そりゃなんじゃい!」と引いてしまう。途中から物語に登場するアッシュや女性刑事のポープなどが、本来ならそうした懐疑主義者の役回りになるべきなのに、この映画では主人公の勢いに押されっぱなしで存在感が発揮できずにいる。

 人間の記憶というのはじつに曖昧で、不確実なものだ。大事なことでも簡単に忘れてしまうし、実際にはなかった出来事を記憶の中に作ってしまうこともある。そんな記憶の不安定さに迫っていくと、『フォーガットン』は一風変わった心理スリラーとしてより面白みを増したようにも思う。面白い場面もたくさんあるんだけど、それだけじゃ物足りないのだ。

 アッシュを演じたドミニク・ウェストが好演している。しかしアッシュが魅力的に見えてしまう分に、彼とヒロインのあいだに男と女の関係がまったく芽生えないのが不自然に見える。この役はもっと冴えない去勢されたような中年男にしておくか、主人公との距離感にもう少し気を配った演出が必要だったかも。

(原題:The Forgotten)

6月4日公開予定 日劇3ほか全国東宝洋画系
配給:UIP
2004年|1時間32分|アメリカ|カラー|ビスタ|DTS、SRD、SDDR、SR
関連ホームページ:http://www.forgotten.jp/
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