輝ける青春

2005/05/13 メディアボックス試写室
あるイタリア人一家の37年間を描く6時間6分の大河ドラマ。
家族と孤立する弟のキャラクターが秀逸。by K. Hattori

 『ペッピーノの百歩』のマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督による、上映時間6時間6分の大河ドラマ。1960年代から2003年までを背景に描かれる、あるイタリア人一家の物語だ。主人公は医学生から後に医者となるニコラ・カラーティ。彼の人生の陰画のように、ぴったりと寄り添いながら対照的な人生を歩んでいく弟マッテオ。ドラマはこのふたりを中心に、家族や友人たちのエピソードを散りばめていく。映画は全体をほぼ半分に切って二部構成となっているが、これは単に休憩時間をはさむためのもののようで、この切断に物語の上での大きな意味はないようだ。(IMDbによるとこの映画のオリジナル版は400分、つまり6時間40分あったらしい。)

 物語は1966年夏のローマから始まる。精神病院のボランティアの仕事で、美しい少女ジョルジアと知り合ったマッテオ。彼女が病院内で虐待を受けているらしいと知ったマッテオは、彼女を病院から連れ出して家族のもとに送り届けようとする。行きがかりから、兄のニコラもこれを手伝うことになるのだが、結局兄弟の善意による行動は失敗に終わる。この事件を機に、マッテオは家族に何の相談もしないまま軍隊に入隊。弟と別れた兄のニコラはひとり北欧への旅に出る。同じ年にフィレンツェで大洪水が発生。世界中から学生たちが復旧ボランティアとして街を訪れる中、兄弟は再会し、ニコラはひとりの女性と運命的な出会いをする……。

 映画はニコラの視点を中心に綴られていくのだが、この映画を独特のものにしているのは弟マッテオのキャラクターだ。芸術を愛する文学青年だが、親に反抗し、試験官に歯向かい、軍隊に飛び込み、ひたすら周囲からの孤立を深めていく。自分の回りに高い壁を作って、その暗がりにはまり込んでいく破滅型の人生だ。そんな彼が一度だけ、積極的に他者と関わろうとした瞬間があった。それがジョルジアをめぐる事件。彼女の救出に失敗したとき、マッテオと周囲の現実をつないでいた何かが壊れてしまう。ジョルジアはその後もこの映画の中で、兄弟の原罪、あるいは良心の象徴であるかのように姿を現す。

 映画の中にはもうひとり、周囲から孤立して危険な生き方にはまり込む人間が登場する。それはニコラの妻となるジュリア。彼女をいかにして救出するかが、映画終盤の大きなテーマになる。そしてこの映画はこう結論づけるのだ。困難かもしれないが、人を救うのはやはり人の力なのだと。この映画に「神の奇跡」は登場しない。人は人の力によって、暗い洞窟の中から救い出される。寄り添って歩く男と女の肩を抱いて、ふたりと親しかったもうひとりの男が並んで歩くシーンには涙が出そうになった。この映画の中で唯一の、非日常的な幻想場面だ。

 6時間という上映時間にはどうしても身構えてしまうのだが、それをまったく苦にさせない映画だ。ただしトイレにだけはご注意を。

(原題:La Meglio gioventu)

7月9日公開予定 岩波ホール
配給・問い合わせ:東京テアトル 宣伝:maison
2003年|6時間6分|イタリア|カラー|ヴィスタ|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://www.kagayakeru.net/
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