大いなる休暇

2005/05/12 メディアボックス試写室
島の生き残りをかけて医者獲得に策謀を巡らす島民たち。
温かな笑いに満ちたカナダ産のコメディ。by K. Hattori

 カナダのケベック州にあるサントマリ・ラデルヌ島は、人口100人ちょっとの小さな島だ。かつては漁業で暮らしを立てていた住人たちも、漁業が廃れた今ではほとんどが生活保護に頼っているありさま。島民たちは生活の糧を求めて工場誘致を働きかけるが、医者のいない島は誘致条件に合わないと門前払いを食ってしまう。暮らしに窮して島を脱出していく者が増える中、やはり失業中のジェルマンは一念発起でまず医者を島に呼ぼうと考える。そんな彼らのもとに、あるきっかけから1ヶ月だけ医者がやってくることになった。「1ヶ月の間に医者に島を好きになってもらうんだ!」。ジェルマンたちはあの手この手を使って、島のイメージアップ作戦を行うのだが……。

 自分たちの生活のために、若い医者を寄ってたかってだまくらかす物語だ。島の住民が総出で、たったひとりの観客のために一芝居打つ様子は、まるで「スパイ大作戦」か『スティング』。不正な方法を使って相手の信用を得ようとする、きわめて詐欺的な行為なのだ。こうした騙しの被害に遭う人間は、「こいつは騙されてもOK!」と観客が許容できる程度に悪どい奴でなければならない。

 そんな観客の期待に応えて、島にやってきたクリストファーという医者は、ちょっといかがわしく軽薄なところがある。そもそも彼が島に来たきっかけは違法薬物の所持を島出身の警官に見とがめられたことだし、小さな島の暮らしを馬鹿にしきっている。ところが映画を観る内に観客は、島民たちにいちいち他愛もなく騙されるこの医者が気の毒になってくる。これほど簡単に騙される人は、きっとそう悪い人ではないのだろうという気持ちになってくる。それは主人公ジェルマンも同じだ。やることなすことすべてが図に当たって大喜びする他の島民たちを尻目に、ジェルマンは少しずつ、クリストファーを騙し続けるのが忍びなくなってくるのだ。

 フランス語の映画なのでフランス映画のような雰囲気が漂うのだが、これはカナダ映画。フランス映画だと最後に皮肉なエンディングを付けておしまいということもよくあり、ひょっとしてこの映画もその類かと最後までひやひやさせられる。さんざんゲラゲラ笑わせられたあげく、最後はしんみりとなるのか、それとも全員幸せなハッピーエンドがやってくるのか……。それは観てのお楽しみだが、この映画の場合はそうした結論そのものよりも、そこまでの過程を楽しむ作品に思える。

 オープニングで往年の島の暮らしをスケッチしたシーンと、映画のエンディングがうまく呼応して全体をサンドイッチにしているのが洒落ている。一日のすべての仕事を終えた男たちが、最後に一服して家々の煙突から煙がスッと立ち上る。こんなシーンの繰り返しが、映画におとぎ話のような幻想美を与えているのだ。最後は誰もがニコニコしてしまうであろう1本。お見事です。

(原題:La Grande seduction)

6月4日公開予定 シネスイッチ銀座
配給:ハピネット・ピクチャーズ、クレストインターナショナル
2003年|1時間50分|カナダ|カラー|1:1.85|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://www.crest-inter.co.jp/oinarukyuka/
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