火星人メルカーノ

2005/3/23 サンプルビデオ
地球に落ちた火星人メルカーノと太っちょ少年の交流?
これはカルト映画になるかもしれない。by K. Hattori

 アルゼンチンのアニメ作家フアン・アンティンが作った、チャーミングでグロテスクなファンタジー・アニメーション。地球に来たのはいいが宇宙船の事故で故郷に帰れなくなってしまった火星人メルカーノと、イケてない太っちょ小学生フリアンの交流。そんな具合にストーリーを要約してしまうと、まるでスピルバーグの『E.T.』のような映画だ。おそらくこの映画は、意図的に『E.T.』をなぞっているに違いない。メルカーノが普通のパソコンを使ってものすごいテクノロジーを作り出すエピソードは、E.T.がエリオットの部屋のガラクタから通信機を作るのと同じだし、映画の最後に仲間の宇宙船がメルカーノを迎えに来るところも『E.T.』そのもの。アンティン監督は1969年生まれ。なるほど、スピルバーグの映画を観て育った世代なのだ。

 しかしこの映画の味わいは『E.T.』とはまるで正反対だ。可愛らしい絵柄で、やっていることは「サウスパーク」より辛辣でダークネス。主人公たちが暮らしているブエノスアイレスは麻薬と暴力と失業者と犯罪だらけ。メルカーノはじめじめした不潔な下水道の中で、ひっそりと身を潜めて暮らしている。両親の愛を感じられないフリアン少年は、パソコンの中のバーチャル世界で現実逃避。フリアンの父は金儲けのためなら自分以外の人類すべての魂を悪魔に売り渡そうという、ゴリゴリの利益至上主義者。メルカーノの友人たちは地球に取り残されたメルカーノを指差してゲラゲラ笑い、まるで同情もしなければ助けに行こうともしない。

 ケチャップを撒き散らしたような残酷描写にも驚かされる。メルカーノを追いかけていた警官は地下鉄に轢かれてバラバラ。メルカーノのペットは落ちてきた探査機に押しつぶされてペシャンコ。メルカーノの光線銃で、警官や警備員たちは粉々の肉片になって周囲に飛び散る。銃撃戦で人はバタバタ死ぬし、最後はもうこれ以上ないという最悪のエンディング。しかし、それでもこの映画は面白い。どこか憎めない愛嬌がある。すべてを笑いのめしているように見えて、その合間にちょっとずつ現実の世界を批判しているような鋭さもある。(最悪の現実を放置したまま理想のバーチャル世界に熱中する人々の姿は、間違いなく現代社会のひとつの側面だろうと思う。)

 映画の中で唯一美しく描かれているのは、メルカーノとフリアンの友情だ。メルカーノを助けようと父親の会社に乗り込んでいくフリアンを、ついつい応援してしまう。最後はどうなるのかと思ったら、突然下手くそなミュージカルになるのも嬉しかった。そしてあのエンディング!

 一度観たら絶対忘れられない映画。そして一度観たらまた観たくなる映画だ。これはカルト映画になる要素が十分にある。絵柄が可愛いので、Tシャツやマグカップなど、メルカーノ関連グッズを作ったら売れるんじゃないだろうか。

(原題:Mercano, el marciano)

2月26日公開 UPLINK X
4月30日公開予定 大阪シネ・ヌーヴォ
配給:アップリンク
2002年|1時間15分|アルゼンチン|カラー|1:1.85
関連ホームページ:http://www.uplink.co.jp/mercano/
Click Here!
ホームページ
ホームページへ