Ray

レイ

2005/2/4 みゆき座
「ソウルの父」レイ・チャールズの半生を描いた伝記映画。
ジェイミー・フォックスの熱演に脱帽。by K. Hattori

 2004年6月10日、73歳で亡くなった「ソウルの父」レイ・チャールズの伝記映画。映画は彼の大ヒット曲「ホワット・アイ・セイ」の印象的なイントロから始まり、彼がフロリダの小さなカントリー・バンドを振り出しに、R&Bやジャズを経て独自のソウル・ミュージックで才能を開花させ世界を席巻するまでを描いている。だがそこで描かれるのは単なる立身出世の偉人伝ではない。むしろ麻薬や女性問題といったネガティブな側面を赤裸々に描き、レイ・チャールズの人間的な弱さを強調している。

 レイ・チャールズの人間的な弱さの根っこにあるのは、彼が自分の過失で幼い弟を事故死させてしまったという心の負い目だった……というのが、この映画のために設定された中心軸だ。ドラマの背骨に肉親の「死」というきわめてネガティブな要素を持ってきたことで、若いミュージシャンのサクセスストーリーは波乱に満ちた「魂の戦いの記録」へと姿を変える。音楽家としての成功とは裏腹に、レイ・チャールズの過去との戦いはより過酷なものになる。その戦いの苦しさから逃れるように、彼は麻薬と、セックスと、音楽活動にのめりこんでいくことになる。

 レイ・チャールズの音楽活動は1940年代に始まり半世紀以上に渡るが、映画は彼の音楽家デビューから麻薬を克服する1960年代半ばまでの、およそ20年ほどを描いている。この間にレイ・チャールズの音楽スタイルはめまぐるしく変化するし、後にソウルのスタンダードとなる名曲の誕生、結婚や家庭生活、女性問題や麻薬問題、公民権運動への関わりなど、映画向けのエピソードも数多く含まれている。どん底から頂点を極め、またどん底に落ちてから再度復活するというのも映画向きだろう。演奏シーンがとにかく素晴らしい。ステージ上で半分即興で「ホワット・アイ・セイ」が生み出されるシーンや、「ジョージア・オン・マイ・マインド」の録音シーンなど、極上の音楽映画だけが持つゾクゾクするような興奮が味わえる。

 しかし映画全体の構成としては復活してからハッピーエンドに落ち着くまでが割愛され、タイトルで処理されてしまったのは少し物足りない。「こうしてレイは復活しました。後は皆さんご存知の通りですよね」ということではあるのだが、ここで復活後のレイ・チャールズを象徴する大規模な演奏シーンか何か、映画を観た後に「う〜ん、大満足!」と観客をうならせる甘いデザートが欲しかった。

 主演のジェイミー・フォックスは『コラテラル』を観たときも上手い役者だと思ったが、今回の映画については脱帽もの。まるでレイ・チャールズ本人が乗り移ったような渾身の芝居だった。この映画が彼の代表作になるのは間違いないけれど、将来的にもこの人はすごい俳優になるに違いない。

 IMDbによると2時間58分のディレクターズカットがあるという。それも観たいぞ!

(原題:Ray)

1月29日公開 みゆき座、シネマライズほか
配給:UIP
2004年|2時間32分|アメリカ|カラー|1:1.85|Dolby Digital、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://ray-movie.jp/
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