レクイエム

2005/1/24 メディアボックス試写室
ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の愛と復讐のドラマ。
全体の暗さがいいムード。暴力シーンも新鮮。by K. Hattori

 殺人現場を目撃した中国人少女がアメリカに密航。それを保護した入国管理官の女性が、少女を追ってきた中国マフィアに惨殺される。殺された管理官の夫ベン・アーチャーは、妻の復讐のためマフィア組織に立ち向かう。ジャン=クロード・ヴァン・ダムの主演最新作は、暗い情念が漂う異色のアクション映画だ。

 監督はこれが2作目というフィリップ・マルチネス。「どうせいつものヴァン・ダム映画だろう」と高をくくっていた僕は、ふたつの死体の前でたたずむヴァン・ダムの姿と、激しいカーチェイスで始まる映画に最初から引き込まれてしまった。これ自体は映画の最初に山場のアクションシーンを少し見せる構成上の工夫に過ぎないのだが、映画はその後も独特の暗いムードを維持したまま最後まで進行していく。この暗さは単に人物の背後を暗く落として処理する映像表現によるものではなく、さまざまな形で描かれる「人間の痛み」に十分な説得力があることから生まれたものだと思う。

 愛と暴力と死がこの映画のテーマなのだ。ほんの少し前まで激しく抱き合っていた自分の妻を、振り向きざまにナイフで殺す中国マフィアの首領スン・クアン。この映画の中では、愛と暴力と死がいつも隣り合わせに存在している。入国管理官のシンシアが、家族と共に過ごす場所で無残に殺されるのも、愛と暴力と死が隣接している好例だ。妻を亡くしたベンが身を寄せる老ギャングたちが、手がかりを知る男に凄惨な拷問をするシーンはその白眉。暴力映画を見慣れた観客ですら思わず目を背けそうな「フランス式の拷問」は、サディズムではなく家族への愛情から発したものなのだ。これは愛する者を奪われた老ギャングたちの心の痛みが他者の肉体的な痛みへと転化される、とても優れた映画表現とも言えそうだ。

 家族のために暴力の世界から身を引こうとした男が、守ろうとした当の家族を傷つけられたことで復讐の鬼となり、再び過激な暴力の世界に身を投じていく。この筋立てはまったく目新しくないし、エピソードの中にも幾多のご都合主義が見て取れる。しかし妻を失った主人公が原因となった少女を恨みに思うという展開は、これまでのヴァン・ダム映画にない生々しさを感じさせるし、年端もいかぬ少女に怒りをぶちまける主人公の姿からは彼の悲しみの大きさが伝わってくる。こうして感情を表に出す部分と、感情を押し殺してじっと反撃の機会をうかがうシーンのコントラストも効果的だ。

 ウェズリー・スナイプス主演の『アウト・オブ・タイム』やスティーブン・セガールの『ICHIGEKI/一撃』とまとめて公開される映画だが、3本の中ではこの『レクイエム』だけが別格の面白さ。「どうせいつものヴァン・ダム映画でしょ?」と先入観を持っている人は、ぜひともこの映画を観て僕と同じ驚きを味わってほしい。これはなかなか、あなどれない作品ですぞ!

(原題:Wake of Death)

3月5日公開予定 銀座シネパトス
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 配給協力:リベロ
2004年|1時間30分|アメリカ|カラー|ビスタ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.action-movie.jp/requiem/
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