マシニスト

2004/12/20 東芝エンタテインメント試写室
極度の不眠症になった男が職場で会った男の正体は?
すごいのはクリスチャン・ベイルの痩せっぷり!by K. Hattori

 タイトルの『The Machinist』というのは機械工という意味だ。工場勤務の平凡な機械工トレバーは、1年にもわたる不眠症に悩まされる。食欲は失せてげっそりとやせ細り、集中力も散漫になってきた彼は、職場でも周囲から薄気味悪がられて浮き上がった存在になっている。そんな彼に声をかけてきたのが、アイバンという見慣れぬ男。彼は最近工場に努め始めたと言う。機械の整備中にアイバンの意味深な仕草に気をとられ、同僚に大怪我をさせたトレバー。だがそこで明らかになったのは、工場にはアイバンという男など勤めていないという事実だった。皆が自分を落とし入れようとしている! そう確信したトレバーは、アイバンという男の正体を突き止めようと躍起になるのだが……。

 主演のクリスチャン・ベイルが役作りのため63ポンド(約28.6キロ)も減量し、骨と皮ばかりになっているのが話題の映画だ。これまで役作りのために体重を増やしたり減らしたりする俳優の話はたくさん聞いてきたが、ここまで極端に体重を落とした役者はベイルが初めてなのではないだろうか。これは歩く骸骨だ。僕が彼の姿を見て思い出したのは、ナチスの強制収容所から解放されたユダヤ人たちの記録写真だった。身体中から筋肉や脂肪が削げ落ちて、骨格がそのまま外から見える異様な姿。これが無名の俳優なら「痩せ型の俳優」で済んでしまうが、ベイルの場合は痩せる前の姿を知っているから異様さが目立つのだ。

 監督は『ワンダーランド駅で』『セッション9』のブラッド・アンダーソン。『ワンダーランド〜』を見た後に『セッション〜』を観た時は作風の激変に驚かされたのだが、今回の映画を見る限りでは、むしろこの監督が得意とするのはダークな色調の心理サスペンスなのかもしれない。舞台となっているのはロサンゼルスだが、撮影は諸々の事情からスペインのバルセロナで行われている。物語は主人公トレバーの主観的な視点で描かれているため、ロスのようでロスじゃない、アメリカのようでじつはアメリカではないという微妙な違和感が、映画の基本トーンとしてとても効果的なものになっている。この微妙な違和感は、最後の最後にあっと驚くような結末に観客を引き込んでいく。

 物語の仕掛けそのものには特に新鮮味を感じなかったし、映画を最後まで観ても、話そのものは「だからどうした?」というものだと思う。しかしそうした映画の弱さをすべて吹き飛ばし、観客を否が応でも「参りました!」と屈服させてしまうのが、クリスチャン・ベイルのやせ衰えた肉体の存在感。ジェニファー・ジェイソン・リーやマイケル・アイアンサイドといった実力派の俳優たちも、演技力以前にこの肉体の前に既に負けている感じ。太ったり痩せたりするのは演技の本質ではないと思うけれど、映画というメディアにおいてはそれが大きな武器になることを立証した1本だと思う。

(原題:The Machinist)

2月公開予定 渋谷シネクイント
配給:東芝エンタテインメント
2004年|1時間42分|スペイン・アメリカ|カラー|シネスコサイズ|DTS、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.365sleepless.com/
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