アウト・オブ・タイム

2004/12/17 GAGA試写室
ウェズリー・スナイプス主演の巻き込まれ型サスペンス。
『北北西に進路を取れ』が下敷きか。by K. Hattori

 陸軍特殊部隊の隊員としてボスニア紛争に派遣されたディーン・ケイジは、深い心の傷を負ったまま帰国し、今もなお平穏な日常に戻れずにいた。そんな彼を健気に支えてくれる恋人の女性刑事エイミー。しかし自分にとっても親友であった彼女の兄を、戦場で殺してしまった自責の念がいつも彼を苦しめているのだ。そんな彼がふとしたきっかけで、政府の研究所から強力な幻覚剤“EX”を盗んで売りさばこうとするグループに拉致されてしまう。ディーンはFBI捜査官と勘違いされたのだ。“EX”を注射されて強力な幻覚作用に苦しめられるディーンは、6時間以内に解毒剤を注射しないと脳神経が焼き切れてしまうという。そんなことも知らぬまま、ディーンはグループの潜伏先となっている病院を脱出し、密売グループ、警察、FBIの三者から追われることになるのだが……。

 ウェズリー・スナイプス主演のサスペンス・アクション映画。内容的にはヒッチコックの傑作『北北西に進路を取れ』をベースにして、主人公を特殊部隊の隊員に置き換えたような話。主人公がレストランでFBI捜査官に間違われる部分はもろに『北北西〜』をなぞっているように思えるし、その後もFBI(本当は違うのだが)が間違えられたディーンを密売グループをミスリードするオトリに使い続けるという展開や、自分の身に起きたことの真相を知った主人公があえて敵地に乗り込んでいくというのも『北北西〜』のままだ。

 主人公を元特殊部隊の隊員としたのは、映画のクライマックスで主人公が銃撃戦を演じなければならないという必然性からだろう。しかしそれでは主人公が強すぎて窮地に陥るスリルが味わえないので、主人公には幻覚剤“EX”を打たれているというハンデが与えられているわけだ。極端に暗示にかかりやすくなるというこの幻覚剤の存在は、主人公が尋問を受けるシーンや病院からの脱出シーンで劇的な効果を生み出している。

 話としてはかなりデタラメで、理屈で考えると筋の通らないことばかりが起きる。救急車で人を拉致するというカモフラージュ工作は面白いのだが、そのために動く人間が背広姿ではなんだかチグハグ。ディーンの口を何が何でも割らせようとする密売グループが、取引直前の土壇場になってもディーンにこだわり続けるのも不可解。そんなことをする間に、取引スケジュールを変更して薬を売り切ってしまえばいいのに。幻覚作用でフラフラしていたはずのディーンが、脳神経が焼き切れる寸前になって八面六臂の大活躍を始めるのも、これが映画のクライマックスで最大の見せ場という都合に合わせたようであまりにも都合よすぎる。これは薬の効果について何らかの事前説明をしておけば、タイムリミットのスリルも高められたはず。脚本にもう少し工夫の余地があってもいい映画だと思う。タンクローリーの墜落はじめ、面白い見せ場も多いんだけどね。

(原題:Unstoppable)

1月29日公開予定 銀座シネパトス、新宿ピカデリー4ほか
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2004年|1時間35分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/
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