人気作家・乙一の短編集「ZOO」から5つの短編を選び、それぞれ独自のスタッフとキャストで映像化したオムニバス映画。ただし製作側ではこれを「オムニバス」とは呼ばず、「コンピレーション・ムービー」と表現している。しかしこれは既に作られた作品群の中からすぐれたものを集めた(compilation=編集・収集)わけではないので、コンピレーションと呼ぶのはちょっと変だろう。ちなみに「オムニバス」というのは乗合自動車(バス)のことだそうな……。
オムニバス映画というのは内容に多少のバラツキがあるのがつきものだがで、5本の作品があれば本当に面白いのは2本ぐらいというのが常。しかしこの『ZOO』は、どれもかなりレベルの高い作品になっている。内容は心理サスペンスあり、ホラーあり、SFあり、ファンタジーありと多種多彩なのだが、ベースにあるのは「スリラー」ということかもしれない。
1本目の「カザリとヨーコ」が既にかなり恐い。松田美由紀が高校生の娘を虐待しているという設定が、そもそも強烈に恐いぞ。娘を演じる小林涼子が一人二役でカザリとヨーコを演じ分ける様子も鬼気迫る怪演で、途中からヒロインの救世主として現れる吉行和子というキャスティングも、なにやら裏がありそうなところが不気味で恐いのだ。しょっぱなでインパクトがあったということもあろうが、これは5本中もっとも楽しめた作品だった。
2本目の「SEVEN ROOM」は何者かに誘拐され、小さな部屋に監禁された姉弟の物語。監禁部屋を行き来する少年というアイデア云々より、最後の脱出劇のくだりが面白かった。ここは脚本にも少し構成上の工夫があって、それまですべて時系列に進んでいたドラマがここだけ少し揺らぎを見せる。こうしたトリックがないと、単なる陰惨な物語になってしまうだろう。
3本目の「陽だまりの詩」はアニメーション作品。生まれたばかりのアンドロイドの少女が、少しずつ世界の仕組みや人間の感情を学んでいった先にあるものは……という話はフィリップ・K・ディック風。4本目の「SO-far」は、ひとりの少年が両親の交通事故をきっかけにして、分裂したふたつの世界の間で翻弄されるという話。ある事件をきっかけにして2種類の世界が生まれるという設定は、やはりディックの「地図にない町」に出てきたアイデア。しかしこれも最後に、思いがけない種明かしが待っている。なるほど!
でも5本目の「ZOO」は……。申し訳ないけど、これだけはちょっと僕にはよくわからなかった。まあ映画のタイトルになっている作品なので全体の最初か最後に持ってくるしかないのだろうけれど、これはどうも独りよがりな作品に思えてしまった。最後を締めくくる作品としては、いささかどころか、大いに力不足ではなかろうか。せっかくレベルの高いオムニバス映画なのに、このエンディングは残念。
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