Uボート 最後の決断

2004/12/10 松竹試写室
撃沈されたアメリカ潜水艦の乗組員がUボートの捕虜になる。
小さな映画だが見どころの多い秀作だ。by K. Hattori

 1943年の大西洋。かつて連合軍艦船を震え上がらせたドイツのUボートだったが、連合軍が最新式の哨戒設備を備えるに至って、少しずつその行動半径をせばめられつつあった。対Uボート作戦を担うアメリカの潜水艦ソードフィッシュは、新任艦長のもと敵艦を撃破するものの、その直後に魚雷の直撃を受けて海に沈む。海に投げ出された乗組員たちは、近くにいたドイツの潜水艦U-429の捕虜となった。連合軍を憎むドイツ兵たちは、敵を救出した艦長の決断に不満を募らせる。また悪いことに、救出されたソードフィッシュ号の乗組員がUボート艦内に伝染病を持ち込んだことから重症者や死者が続出。連合軍の爆雷攻撃で船体にも深手を負ったU-429の艦長は、部下や捕虜たちすら思いもかけない、ある重大な決断をするのだが……。

 映画は大きく3つのパートに分かれる。新任艦長に率いられた米艦ソードフィッシュの様子と、作戦を黙々とこなすドイツのUボートの戦いぶりを描く前半部。ここは様々な潜水艦映画の要素が詰まっていて面白い。次いでUボートに救出された米艦乗組員と、Uボート乗組員の反目や対立を描く中間部。ここは異色の捕虜収容所ものの雰囲気がある。外部から隔絶された潜水艦という密室。しかもそこに伝染病が蔓延して行く危機。ドイツ側の兵士が浮き足立つのと反対に、米軍側はこの危険の中で結束力と連帯感を強めていく。だがこの対立は、Uボート艦長の思いがけない決断によって一気に和解へと進む。昨日まで敵同士だったドイツとアメリカの兵士たちが、言葉もうまく通じない中で力を合わせていく様子は面白い。まるで「呉越同舟」の故事の現代版のようだ。

 この手の戦艦ものでは艦長や副長という指揮官クラスが主人公になることが多いが、この映画で米側の主人公になるのは、艦長でも副長でもない艦内ナンバー3の男ネイト・トラバース。新任艦長と早々に病に倒れた副長を脇からサポートしつつ、艦長に不満を持つ他の乗組員たちをまとめ上げる中間管理職的な役回りだ。演じているのは数々の映画に出演している名脇役ウィリアム・H・メイシー。これに対してドイツ側の艦長を演じるのはティル・シュヴァイガーなのだが、実際に捕虜たちの前に顔を出して米独両兵士の調整役となるのはやはり副長。艦長の決断に戸惑いつつも、それを受け入れ部下たちをまとめようとする、これもまた中間管理職みたいな役なのだ。

 他の映画からの流用映像が多いなど、低予算映画であることは隠しようもないのだが、そんな映像の流用すらも一種のリアリティに感じさせてしまう作品だ。難を言うなら、Uボート艦長の決断が最後に「ああ、なるほど」と腑に落ちるための迫力が、今ひとつ不足しているかなあ……という程度。映画の最後は明らかにハッピーエンドなのだが、少し歯切れの悪いものになっているのも残念。ここが鮮やかに決まれば最高だったのに。

(原題:In Enemy Hands)

2月19日公開予定 日比谷スカラ座2
配給:エスピーオー
2003年|1時間38分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://www.uboat-sk.jp/
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