フリック

2004/11/11 KSS試写室
香川照之主演の異色刑事ミステリー。共演は田辺誠一と大塚寧々。
映画の枠組みにまで揺さぶりをかける監督の挑発。by K. Hattori

 『CLOSING TIME』『海賊版=BOOTLEG FILM』『KOROSHI』『歩く、人』など、独特の空気感を持つ映画を作ってきた小林政広監督の最新作。例によって今回も北海道が舞台で、妻を殺された刑事の魂の漂流が悪夢めいたイメージの連続として描かれている。主演は『歩く、人』にも出演していた香川照之。田辺誠一と大塚寧々が長編映画で夫婦初共演している。(最初の共演は田辺誠一が監督した短編オムニバス映画『ライフ・イズ・ジャーニー』だが、同じエピソードの中での共演はなかったようだ。)劇中でふたりが顔を合わせると田辺がひどくばつの悪そうな表情をするのが面白い。じつはこれが、物語の伏線になっていたりするのだけれど……。

 香川照之演じる村田刑事は、理由もわからぬまま突然自宅マンションで暴漢に妻を殺されて以来、事件現場となった部屋にひとり引きこもるように暮らしている。そんな彼を心配して訪ねてきた後輩の若い刑事・滑川(なめりかわ)は、気晴らしにと彼を北海道への旅に誘う。東京のラブホテルで起きた惨殺事件の被害者遺族を、北海道まで迎えに行くだけの簡単な仕事だ。ところがよせばいいのに、村田はここで突然刑事の嗅覚を発揮し始める。北海道に渡った途端に、被害者となった女子大生の兄を質問責め。翌日その兄が死体で発見されると、地元警察が自殺と断定したことに異議を唱えて他殺だと騒ぎ出す。村田は知らず知らずのうちに、自分自身の身の上とも大きな関わりを持つ陰謀の存在に気づき始めるのだった……。

 物語はラブホテルで女子大生が殺されるプロローグに始まり、全体でいくつかの章に分けられている。第1章は妻を殺され酒浸りになった刑事が、北海道で新たな事件に出会う刑事ドラマ。ところが第2章以降は、そうそう一筋縄ではいかない展開となる。その場で起きていることが、現在なのか過去なのか、現実なのか夢なのか、あるいは妄想や幻覚なのか、土台となる現実感が揺らいでくるのだ。カメラが同じような長いパンを何度も繰り返す。長めのパンを繰り返す行為は、やがて同じシークエンスを何度も繰り返す行為へと変化する。そしてさらには、物語の一部が何度も何度も反復されるまでになるのだ。

 ここまではまだ映画を観る側の思惑として、主人公の幻覚や幻想という理屈で何とか処理できる。これはアルコールと精神的なショックから、正気を失った主人公の主観的な世界なのだと……。だが映画が劇中で描かれる主人公の幻想や幻覚という領域を飛び越え、映画自体の枠組みすらユサユサと揺さぶり始めると、画面を観ていたこちらは唖然とするしかないのだ。一体これは何事か!

 ミステリー映画としては何が何やらさっぱりわからない筋立てとオチだが、映画としてはこの支離滅裂さがたまらなく楽しく面白い。いつもヘラヘラ笑っている北海道の刑事がやけに恐い。ナイスキャラだ。

2005年新春公開予定 シブヤ・シネマ・ソサエティ(レイト)
配給:ケイエスエス
2004年|2時間34分|日本|カラー|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.kss-movie.com/flic/
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