キス・オブ・ライフ

2004/11/05 映画美学校第2試写室
不慮の死を遂げた人間が愛する家族のもとに戻ってくる。
悲劇の中から家族の「愛」が見えてくる。by K. Hattori

 国連の仕事でクロアチアの難民キャンプに物資を運ぶ仕事をしているジョンは、家族をロンドンに残して家を空けることがほとんどだ。今年は妻ヘレンの誕生日に家族とピクニックに出かける約束をしていたというのに、その約束は果たせそうにもない。電話でそれを詫びるジョンは、結局妻と口論になって電話を切ってしまう。ヘレンは夫のジョンに危険な場所に行って欲しくない。そんな彼女の気持ちを十分知っていながら、なぜ自分は妻を傷つけてしまうのだろうか。ジョンは帰国を決意する。約束には間に合わないかもしれないが、そんなことは構わない。危険だからよせという同僚の忠告にも耳を貸さず、通りがかりの車に便乗して国境を目指すジョン。だがその前には大きな悲劇が待っていた……。

 戦場から妻のもとに戻るユリシーズの物語と、愛する人への思いを残したまま命を落とした人間が、家族のもとに戻ってくる幽霊譚を組み合わせたようなストーリー。監督のエミリー・ヤングはこれが長編デビュー作。夫のジョンを演じるのは『マイ・ネーム・イズ・ジョー』でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞し、最近は阪本順治監督の『この世の外へ/クラブ進駐軍』にも出演していたピーター・ミュラン。妻ヘレン役は当初カトリン・カートリッジで準備が進められていたが、彼女が急死したため『太陽に灼かれて』のインゲボルガ・ダプコウナイテに交代した。(この映画は亡くなったカートリッジに捧げられている。)ヘレンの父親役はデヴィッド・ワーナー。

 危険と隣り合わせに見えた者がなだかんだで命を長らえ、平和な暮らしをしていたと思われた者があっけなく命を落とす。死はなんとも理不尽であるとも思えるし、意外なほどに公平だとも言える。しかしこの映画は、別にそうしたことを描いているわけではない。ここでは死んだ人間の視線を通して、その後に残された人たちの姿が描かれる。現実と幻影は境界なしに繋がり、夢の中の出来事と現実とが重なり合う。死者の視点から現実世界を見るというアイデアは、『シックス・センス』もあれば『アザーズ』もあったわけで格別新しくはない。ただしこの映画では、死んだ者が一切現実の世界には介入できないというのが切ない。

 幻想的な物語を通して、この映画は家族の中にあった「愛」を浮かび上がらせようとする。現実には目に見えず、手で触れることもできないのに、この映画を観た人はこの家族の中にある「愛」を実感できると思う。映画が終わった後にこの家族がどうなるか、この映画はあえて何も手がかりを残さない。しかしこの「愛」がある限り、この家族はこれからも強く生きていけるに違いない。そんな確信を与えてくれる映画だ。

 題名の『キス・オブ・ライフ』とは口移しの人工呼吸のことで、そこから転じて誰かの人生を救うという意味。この映画の中で、救われたのは一体誰なのだろうか……。

(原題:Kiss of life)

12月上旬公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース
2003年|1時間26分|イギリス、フランス|カラー|1.1.85|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.eurospace.co.jp/
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