火火

2004/11/05 映画美学校第2試写室
信楽の女性陶芸家・神山清子と息子・賢一の実話を映画化。
田中裕子がヒロインを熱演。泣けます。by K. Hattori

 信楽焼で有名な滋賀県信楽町で、大昔に技術が失われた自然釉の技術を復活させた女性陶芸家・神山清子と、同じく陶芸家としての将来を嘱望されながら若くして白血病のため亡くなった神山賢一親子の物語。実話をもとにした壮絶で感動的なヒューマンドラマだ。監督・脚本は高橋伴明。主人公の神山清子を田中裕子が演じ、息子の賢一を窪塚俊介が演じている。ご存じ自宅マンションから飛び降りたお騒がせ男、窪塚洋介の弟だ。僕は今回の映画で初めて彼を観たが、素直で伸び伸びした演技には癖がなくて好印象を持った。

 映画はヒロイン清子の夫が別の女と家を出て行くところから始まり、離婚後の極貧生活、自然釉復活への執念、自然釉再現成功と作家生活の始まり、娘の独立、息子・賢一の陶芸家への歩みなどを描いていく。これだけでもストーリーは波瀾万丈だ。しかし生活がようやく安定してきた頃、神山家にはそれまでの生活の一切合切をひっくり返すような大事件が起きる。息子の賢一が突然倒れ、医者から白血病と診断されたのだ……。

 こうした実話映画の場合、登場人物の名前はよく似た別の名前に変更するのが普通だ。しかしこの映画では、神山家の3人についてすべて実名が使われているという。作中に登場する窯は本物。登場する焼きものはほとんどが神山親子の本物の作品で、一部に役者が作ったものも混じっているという。

 映画後半は前半と打って変わった難病ものになる。賢一に骨髄を提供するドナーが見つからず、母の清子や友人たちが奔走するのだ。賢一を救おうと広がる善意の輪。だがそれは血液検査の費用がかさむという現実的な壁の前に挫折する。ひとりの検査に1万円以上。ドナー希望のボランティアが千人集まれば1千万だ。その金はとても一家の収入や募金ではまかなえない。当時は公的な骨髄バンクがなかったのだ……。

 賢一は結局最適なドナーが見つからないまま病気が悪化し、緊急の措置として抗体が一部一致する叔母からの骨髄移植を受ける。だが映画の冒頭であらかじめ観客に予告されているとおり、賢一は移植のかいなく亡くなってしまう。

 賢一が病室で息を引き取るシーンを観て、この話は「悲しみの聖母」の物語なのだと気づいた。今まさに自分の膝に死んだばかりの息子を抱きかかえたヒロインの姿は、十字架で死んだ息子イエスを聖母マリアが抱きかかえるピエタそのものではないか。この映画のヒロインは女手ひとつで子供たちを育て上げるが、イエスもまた父親のいない家庭で育っている。映画のテーマ曲は日本語で歌われる「アメージング・グレース」。お見合いの席で清子が相手の男性に、「私と一緒になるなら貧乏になってください」と言う印象的な場面があるが、これも非常に聖書的だと思う。この映画は日本人が観てももちろん感動的なのだが、海外のキリスト教圏に輸出しても受けるだろう。

2005年新春公開予定 シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、関内MGA
配給:ゼアリズエンタープライズ
2004年|1時間54分|日本|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.hibi.cn/
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