ダンデライオン

2004/10/29 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ3
どこにでもある出口のない行き止まりの青春を描く映画。
美しい風景との対比が効果的だ。by K. Hattori

 『アナザー・デイ・イン・パラダイス』のヴィンセント・カーシーザー主演の青春ドラマ。相手役はタリン・マニング。(映画祭の資料ではヴィンセント・カータイザーとタリン・マニンになっていたけれど。)のどかな田舎町を舞台に、出口のない行き止まりの青春を描いている。監督のマーク・ミルガードはこれがデビュー作だというが、誰もが憧れるような平和な風景の中に、若者の閉塞感をものの見事に描き出している。ただしそれが面白いかというと、観ていてやりきれない感じばかりが募ってしまうのだけれど……。

 主人公メイソン・ムリッチは、どこまでも広大な畑が広がるのどかな農村地帯で家族と共に暮らしている。厳格な父は製粉業を営むかたわら、地域で議員活動をしている。敬虔な母は家族を愛しながらも、最近はアルコール依存の度が進んでいる。父の兄はベトナム戦争の精神的後遺症から施設暮らしをしているが、時々メイソンの家を訪ねて一緒に食事をする。ある日メイソンの近所に、ダニーという女の子が引っ越してきた。メイソンはすぐに彼女と仲良くなり、幼い口づけを交わすような仲になる。恋の予感だ。ところがそんな矢先、メイソンの父が交通事故を起こすのだった……。

 この映画に登場する田舎町の風景はとても美しい。農業国アメリカの心の故郷でも言いたくなるような、広々とした平和な風景だ。しかもそこにあるのは、風景とは裏腹な雑多で腐った人間関係。母親はアル中。友だちの兄貴はジャンキー。アルコール、マリファナ、ドラッグなどは、こんな田舎町でもちゃんと手に入る仕組みになっている。映画館すらないちっぽけな田舎の町で、若者たちの楽しみは酒とドラッグとセックスしかない。

 映画ではこの町が、外部から切り離され孤立した場所として描かれている。町を出入りする人はほとんどおらず、顔見知りばかりの小さな範囲内で物語が進行していくのだ。映画を観る人にとってはため息が出るような素晴らしい風景も、映画の登場人物たちにとってはヘドが出るような退屈で見慣れた風景。彼らはその風景の中から、一歩も外に出て行くことができない。この映画では、虐げ続けられた主人公がいかにして町の外に出て行くかがテーマになっている。

 物語はいくつかのモチーフが組み合わされている。メイソンとダニーの関係。メイソンと父の断絶と和解。両親の断絶と和解。そしてダニーと母の緊張した関係。その他諸々。様々な事柄によってちっぽけな町に縛り付けられていた主人公は、ひとつの「死」によって町や家族から解放されるのだ。町にはようやく列車が到着する。だがこの列車が、いったいどこに到着するのかは誰にもわからない。

 タイトルの『ダンデライオン』はタンポポという意味。タンポポの種は風に吹かれて飛んでいく。だがどこまで飛ぶかは風向き次第だ。

(原題:Dandelion)

第17回東京国際映画祭コンペティション正式出品作品
配給:未定?
2003年|1時間34分|アメリカ|カラー|1:2.35|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.dandelionthemovie.com/
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