マイ・ボディガード

2004/08/06 松竹試写室
デンゼル・ワシントン主演のハードな復讐ドラマ。
共演はダコタ・ファニング。by K. Hattori

 米軍の対テロ部隊で16年にわたり暗殺の仕事を続けてきたジョン・クリーシーは、除隊後も心と体に受けた多くの傷を癒せずにいた。わずかな眠りを取るため、大量の酒に頼る日々。そんな彼に、クリーシーの“戦友”で引退後はメキシコで警備会社を営んでいるレイバーンがひとつの仕事を紹介する。それは誘拐ビジネスが横行する治安の悪いメキシコで、実業家の娘を護衛するというものだった。依頼人は実業家のサムエル・ラモスとリサ夫妻。守るべきはその9歳の娘ピタ。やがてピタの何気ない振る舞いや言葉に、つい微笑みを取り戻すクリーシー。だがそんな彼の前で、ピタは武装グループに誘拐されてしまう。しかも身代金受け渡しの際のトラブルから、事態は最悪の結果に……。犯人たちに銃撃され自らも重傷を負ったクリーシーは、傷が完全に癒える間もなくピタの復讐のためたったひとりで犯人グループに立ち向かう。

 A.J.クィネルの冒険小説「燃える男」をトニー・スコット監督が映画化。主演はデンゼル・ワシントンとダコタ・ファニング。原作はイタリアが舞台だったが、映画ではメキシコに変更してある。脚本を書いたのは『L.A.コンフィデンシャル』や『ミスティック・リバー』のブライアン・ヘルゲランド。誘拐やネゴシエーション、保険による身代金支払いなどは、実際にメキシコでビジネスになっているらしい。映画の冒頭には誘拐から身代金支払い、人質の解放までの例が短いフィルムで紹介されているが、人混みの中でターゲットを強引に車の中に引っ張り込む荒っぽさ。誘拐ビジネスを描いた映画には『プルーフ・オブ・ライフ』があったが、今回の映画もそれに負けない作品になっていると思う。

 2時間半もある映画だが、中盤まではクリーシーとピタの心の交流が丁寧に描かれている。心に傷を持つ男が、ひとりの少女に出会って新たな生を得る物語。いわばこれがドラマの第1幕。ここにじっくりと時間をかけているため、その後の復讐劇に血が通うことになる。少女に少しずつ心を開かされていくデンゼル・ワシントンの芝居がいい。微笑みを取り戻した自分のことを、彼自身が一番驚いているような、そんな気持ちが伝わってくる。神に救いを見いだせなかった彼にとって、ピタこそが自分を救ってくれた恩人なのだ。そんな掛け値なしの感謝の気持ちや信頼が奪い去られた時、クリーシーは冷酷な鬼になる。

 この映画を貫いているのは、「殺した者は殺されねばならない」という単刀直入なモラルだ。これを徹底しているからこそ、観客はクリーシーの残忍な復讐劇を支持することができる。映画の結末は苦いものだが、それもこのモラルの延長にあるものだ。ここで安易なハッピーエンドを許してしまえば、この映画の保持していたモラルは根本から突き崩されてしまうのだ。原作はシリーズになっているが、さ〜て映画はどうなることやら。

(原題:Man on Fire)

10月下旬公開予定 丸の内ピカデリー1他・全国松竹東急系
配給:松竹、日本ヘラルド映画
2004年|2時間26分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|ドルビーSR、DTS
関連ホームページ:http://www.mybodyguard.jp/
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