キング・アーサー

2004/07/13 丸の内プラゼール
アーサー王伝説を史実に近づけようとする大胆な試み。
リアリティと映画の魅力は別だよな……。by K. Hattori

 円卓の騎士と聖杯探求で有名なアーサー王伝説は、中世ヨーロッパで騎士道の精神的な支柱となった有名な物語。1485年にはそれまで流布していて伝説群をマロリーが集大成して英訳し、「アーサー王の死」として出版した。だがこうした伝説を生み出した実際の「ブリテン王アーサー」は、マロリーの本よりさらに千年も昔の人物だったと言われている。この映画は巷間よく知られているアーサー王伝説ではなく、5〜6世紀に実在したと言われているブリテン王アーサーの“実像”を描こうとする歴史スペクタクル劇。脚本を『グラディエーター』のデイヴィッド・フランゾーニが担当し、アーサー王伝説でお馴染みのエピソードやキャラクターを多く借りながら、歴史の中のアーサー王を再現している。監督は『トレーニング・デイ』のアントン・フークァ。

 一時はヨーロッパと地中海世界の全域を支配していたローマ帝国も、5世紀にはその衰退ぶりを隠せなくなってきていた。ブリテン島もそれは同じ。島を南北に分けるハドリアヌスの壁はローマ人のアーサーとその配下の騎士たちによって守られていたが、先住民であるウォードの反乱は止まず、島の北方からは凶暴なサクソン人が南下してくる。ローマはついにブリテン島からの撤退を決めるが、アーサーたちにはそれを前に最後の任務が与えられる。それは壁の北方に孤立したローマ人一家を救出すること。アーサーと騎士たちは犠牲を払いながらも何とかこの任務をはたすが、任務を解かれて自由の身となったアーサーや騎士たちの前には、サクソン人の到来に怯えるブリテン人の姿があった。アーサーはウォードのリーダーである魔術師マーリンと共に、迫り来るサクソン人たちを迎え撃つことにするのだが……。

 この映画に登場するアーサーはローマの軍人であって、ブリテン王のアーサーではない。この映画はローマ人のアーサーが、ブリテン王になるまでの物語だ。魔術師マーリンや、王妃グィネヴィア、ラスロッドを筆頭とする円卓の騎士たちは登場するが、そこに「アーサー王伝説」のきらびやかなイメージはない。円卓の騎士たちはローマに占領された東方騎馬民族から挑発された外国人であり、ブリテンという土地には特に愛着を持っているわけでもない。この映画はかつてアーサー王伝説を映画化した『キャメロット』や『エクスカリバー』より、『ブレイブハート』に似ていると思う。

 観客は自分たちが知る「現実」をもとに、映画の中の「現実」がリアルなものであるかを判断する。この映画は主人公たちが巻き込まれる戦争をリアルに描くため、21世紀の観客にとっての「戦争のリアリズム」を映画に持ち込んだ。それはつまり、イラク戦争だ。故郷を離れて遠い異国の地で闘う騎士には、イラクで闘うアメリカ兵たちの姿が重ね合わされている。戦争の大義はそこにないし、円卓の騎士は多国籍軍だ。ひどくなまぐさい映画だなぁ。

(原題:King Arthur)

7月24日公開予定 丸の内ルーブル、丸の内プラゼール他・全国松竹東急系
配給:ブエナビスタ
2004年|2時間10分|アメリカ、アイルランド|カラー|2.35:1|DTS、ドルビーデジタル、SDDS
関連ホームページ:http://www.movies.co.jp/kingarthur/
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