父と息子たち

2004/06/16 パシフィコ横浜
仲の悪い息子たちを和解させようと病気をいつわる父。
名優フィリップ・ノワレの名人芸。by K. Hattori

 仕事を引退して悠々自適な毎日を送っているレオには、どうしても解決したいひとつの悩みがあった。それは3人の息子のうち長男と次男の関係が険悪で、ここ数年はまともに顔を合わせようとすらしないことだ。そんなある日、レオは階段を勢いよく駆け下りた拍子に息切れし、病院に担ぎ込まれてしまう。主治医でもある弟の診断はまったくの健康体。しかしレオはこの機会に乗じて、息子たちを仲直りさせようと企む。「診断の結果、難しい心臓手術を受けることになった。どうか手術の前に息子たち3人と親子水入らずの旅をしたい」と、真っ赤な嘘も時には方便。かくしてレオと息子たちはカナダへの旅に出るのだが……。

 主人公である父親レオを演じるのは、『ニューシネマ・パラダイス』のフィリップ・ノワレ。長男ダヴィッドを演じるのはシャルル・ベルリング。次男マックスはブリュノ・ピュツリュ。三男シモンにパスカル・エルベという配役。俳優出身のミシェル・ブージュナーの第1回監督作だが、笑いのツボを見事に抑えた、あたたかくて気持ちのいいコメディになっている。脚本はエドモンド・バンシモンと三男役のエルベが書いたストーリーをもとに、ブージュナー監督も加わって仕上げている。

 物語を動かしているのは父親のレオであり、彼の心情に観客がたっぷり感情移入できないとこの映画は成立しない。健康で何不自由のない生活はしているが、妻には先立たれたやもめ暮らし。その彼が思いがけず倒れて病院に運ばれたことで、つかの間ではあるが強く死を意識する。医者は健康状態に太鼓判を押してくれたが、それでも一度は死を意識した彼は、「このまま自分が死んだら、息子たちはどうなるのだろうか?」考えずにいられない。この気持ちの切実さを観客が十分に理解できるからこそ、主人公の嘘をとがめる気にはなれないのだ。父親をそこまで追いつめてしまった息子たちの方が、嘘をつく父親より何十倍も罪が深いに決まっているではないか!

 旅に出ても兄弟の仲は簡単には修復できず、道の真ん中で取っ組み合いの喧嘩が始まる。映画の中ではここが一番面白かった。急に具合が悪くなったふりをするレオが、じつは仮病だということを観客にそれとなく伝える目配せがいい。これには大笑い。笑えるシーンは他にもたくさんあるけれど、役者の表情だけでここまで笑わせてくれるのは、やはりベテラン俳優の芸の力なのだ。

 療法師母娘が登場する物語の終盤になると、父親の仮病にどう決着を付けるかというサスペンス。もちろんハラハラドキドキというより、ここはクスクス笑いながら観る場面だ。ここで活躍し始めるのが三男のシモン。長男次男の和解を描くことに集中していたドラマの矛先が、ここでようやく三男に向けられる。このあたりは脚本家も兼ねたエルベの役得という感じがしないでもない。

 楽しい映画。日本での正式な劇場公開を希望したい。

(原題:Pere et fils)

6月16日上映 パシフィコ横浜
第12回フランス映画祭横浜2004
配給:未定
2002年|1時間37分|フランス、カナダ|カラー|ドルビー
関連ホームページ:http://www.unifrance.jp/yokohama/
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