テイキング・ライブス

2004/06/15 ワーナー試写室
アンジェリーナ・ジョリーがFBIのプロファイラーを演じるスリラー。
出演者の顔ぶれは豪華だが中身はいまいち。by K. Hattori

 アンジェリーナ・ジョリーがFBIのプロファイラーを演じるサスペンス・スリラーだが、出演俳優が豪華な割には中身が薄いように感じるのはなぜだろう。試写当日に風邪をひいていて、体調万全でなかったという部分を差し引いても、少し物足りない印象が残る映画だ。物語の舞台になっているのはカナダのモントリオール。フランス語圏を舞台にしているため、映画はフランス語と英語のチャンポン。しかし出演しているのはフランス語圏カナダの俳優ではなく、ほとんどがフランスの映画俳優なのだ。

 フランス人俳優は名の知れたスターばかりで、捜査本部長がチェッキー・カリョ、担当刑事はジャン=ユーグ・アングラートとオリビエ・マルティネスというすごい顔ぶれ。対する英語圏の人間はハリウッドのトップスターばかりで、犯人の目撃者にイーサン・ホーク、謎の男にキーファー・サザーランド、それにジーナ・ローランズ。この顔ぶれで映画を作り、わざわざカナダのモントリオールを舞台にする理由がよくわからない。カナダで撮影した方が低コストなのはわかるけど、これだけの俳優をそろえたらそのギャラだけで大変なことになるような気もするけどなぁ……。

 アンジェリーナ・ジョリーは魅力的だけれど、この映画ではヒロインのバックグラウンドが見えてこない。チェッキー・カリョ扮するレクレア本部長がFBIで研修を受けていた際、主人公イリアナ・スコットの辣腕ぶりに惚れ込んだという説明があるだけで、それ以外の事情がさっぱりわからないのだ。FBIで彼女はどんな立場なのか。これまでに手がけてきた事件で、どのくらいの実績を上げてきたのか。何より気になるのは、イリアナがFBIのプロファイラーという自分の職業について、どう考えているのかという点だろう。彼女の言動から職業意識や職業倫理などの片鱗が少しでも見えれば、彼女が犯人の罠にはまって身動きできなくなる恐怖と屈辱がより強調されただろうに。

 タイトルの『テイキング・ライブス』とは、自分と同じ年格好の男を殺してはIDを盗んで別の人間になりすます犯人のことで、マイケル・パイの原作が邦訳された際は「人生を盗む男」というタイトルになっていた。ID窃盗はきわめて現代的なモチーフだと思うが、映画の中でそれがうまく生かされていなかったのは残念。ID窃盗は相手を殺さなくても可能な犯罪だ。あえて相手を殺してすり替わるというのは、やはり殺人という行為に犯人が何らかの意味を見いだしているからなのだろうが、それがどんな意味を持つのか映画からは伝わってこなかった。

 いろいろな点で腑に落ちない部分の多い映画で、最後の戦いと結末も後味の悪さだけが残った。アンジェリーナ・ジョリーの警察ものだったら、いっそのこと『ボーン・コレクター』をシリーズ化してほしいんだけどなぁ。まぁこれはデンゼル・ワシントン次第かもしれないけど。

(原題:Taking Lives)

夏公開予定 渋谷東急他・全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2004年|1時間43分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SRD、SDDS、DTS
関連ホームページ:http://www.warnerbros.co.jp/
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