69 sixty nine

シックスティナイン

2004/05/25 東映第1試写室
1969年の青春グラフィティ。面白い。ゲラゲラ笑った。
懐古趣味にならないところがいい。by K. Hattori

 村上龍の自伝的な同名小説を、『青 chong』や『BORDER LINE』のリ・サンイル(李相日)監督が映画化した痛快青春ドラマ。物語の舞台は1969年(昭和44年)の佐世保。主人公のケンこと矢崎剣介は、楽しいことのために舌先三寸で周囲をアジテーションしまくる高校3年生。夏を迎えたケンは親友のアダマこと山田正やイワセらを巻き込み、アメリカの若者たちの間で流行っているという「フェスティバル」を佐世保でもぶち上げようと企画する。そのためには何が必要か。映画だ。映画には何が必要か。カメラだ。ヒロインだ。かくしてケンたちはカメラを調達する口実作りのため、学内の中核派グループをたきつけて屋上をバリケード封鎖することになったのだが……。

 主演は妻夫木聡と安藤政信。物語の中には1969年を象徴する様々な小道具が散りばめられているのだが、登場する高校生たちの顔つきも髪型も服装もこざっぱりとした今風のもので、少しも60年代の地方の高校生に見えないというのがミソだろう。ここでは現代の若い俳優たちが60年代に戻るのではなく、60年代という時代背景を2004年の現代に引き寄せているのだ。リ・サンイル監督は1974年生まれで、脚本の宮藤官九郎は70年生まれ。この映画で描かれた時代には、この世に影も形も存在していなかった彼らには、60年代を懐古的に描くことなど最初からできないのだ。彼らは「今この時」の感覚で、1969年の佐世保を描く。そこでは佐世保が「SASEBO」というワンダーランドに変身する。

 それにしても元気のいい映画だ。僕はこの映画を観ていて、久しぶりに「リビドー」という言葉を思い出した。主人公たちの行動の原動力は、すべてが「女の子にモテたい!」「憧れの女の子とお近づきになりたい!」というスケベな下心がもとになっている。性衝動と行動力が分かち難く結びついた、青春期特有のエネルギッシュな行動力。そこには年寄りくさい打算や計算は少しもない。己の下半身の命ずるままに、ひたすら前進あるのみなのだ。少年たちは大声でわめき泣き叫ぶ。全力で走る。自転車で坂道を転げ落ちるように疾走する。……というわけで、念願のフェスティバルのタイトルは「朝立祭」。十代の少年たちは、朝っぱらから固く強く起立するのである!

 音楽の使い方がしゃれている。映画中盤のクライマックスは深夜の学校に忍び込んでのバリケード封鎖なのだが、ここで高らかに鳴り響くジャニス・ジョプリンの「サマータイム」には参った。今後この曲を聴くたびに、あの場面を思い出してしまうことだろう。映画後半のクライマックスでは、ハニー・ナイツの「オー・チン・チン」が流れてくるというのも泣かせる。「あのチンポコよどこいった」という歌詞は、この映画のテーマそのものではないか。

 主人公周辺の大人たちも個性的で面白い。中でも柴田恭兵が最高でした。

7月10日公開予定 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映
2004年|1時間53分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.69movie.jp/
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