19世紀末のアメリカ。西部開拓やインディアンとの抗争が過去の物語になりつつある頃、「西部劇」を見せ物仕立てにしたバッファロー・ビルのワイルド・ウェスト・ショーが各地で人気を博していた。射撃の名手アニー・オークリーや第七騎兵隊を絶滅させたシッティング・ブルなどと共に一座の花形だったのが、全米各地の耐久レースで負け知らずのムスタング(野生馬)ヒダルゴと騎手フランク・ホプキンス。だがウンデッド・ニーの虐殺を目撃して以来、フランクは酒浸りの毎日でショーの出演もおぼつかないありさまだった。白人とインディアン双方の血を引くフランクは、自分が何者で、これから何をすべきなのかがわからなくなっていたのだ。そんな彼のもとに、一通の挑戦状がたたきつけられる。それはアラブの族長が主催する「オーシャン・オブ・ファイヤー」という世界一過酷な耐久レースへの招待だった……。
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでハリウッドのトップスターになったヴィゴ・モーテンセンが、『遠い空の向こうに』や『ジュラシック・パークIII』のジョー・ジョンストンと組んだアクション・アドベンチャー映画。主人公のフランク・ホプキンスは実在の人物で、この映画は彼の体験談をもとにしているのだという。アラブの族長を演じるのは、『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』の公開も控えているオマー・シャリフ。
映画は冒頭でウンデッド・ニーの虐殺というアメリカ史の暗い一面を見せるし、『アニーよ銃をとれ』で有名なバッファロー・ビルのワイルド・ウェスト・ショーが、実際にはどんなものだったのかも見せてくれる。だがこんなネガティブなアメリカ観を、一気にひっくり返して「アメリカ万歳!」にしてしまうのがこの映画なのだ。こんな映画を観ていると、「俺もできればアメリカ人に生まれたかった!」と思う。もちろん日本人がこの映画を観ても十分に面白いのだが、アメリカ人はその何倍も熱狂し感動できる映画になっているのだ。
アメリカはヨーロッパからの移民が作った歴史の浅い国で、そのことがアメリカ人にとって最大のコンプレックスになっている。だがこの映画の中では、ヨーロッパから新大陸に持ち込まれた後に野生化したスペイン系のムスタングが、純血種のアラブ馬やサラブレッドをことごとく打ち負かしていく。映画の原題は『Hidalgo』だが、この飼い慣らされないムスタング(野生馬)の中に、アメリカ人たちは自分たちの姿を投影できるのだ。
ディズニー系のタッチストーンが製作した映画ということもあり、本来はファミリー向けの作品なのだろう。残酷なシーンはほとんどないし、エロチックなシーンもない。これは日本語吹替え版を作れば、小さな子供でも楽しめる映画だと思うけど、日本では『ロード・オブ・ザ・リング』のヴィゴ様主演最新作!だけが売り文句。ちょっともったいない。
(原題:Hidalgo)
|