片目だけの恋

2004/04/28 映画美学校第1試写室
従姉妹の夫に恋い焦がれる女子高生がとった行動とは。
ヒロインを演じた小田切理恵が気になる。by K. Hattori

 1965年の監督デビュー以来、膨大な数のピンク映画を量産している渡辺護の最新作。「映画番長」シリーズの第2弾「エロス番長」の中の1本。監督自身はこの映画について『七〇歳過ぎても、まだ懲りずにセーラー服ものを撮るとは!』と述べているが、なかなかどうして、まったく枯れたところのない瑞々しい映画になっている。(ただしヒロインの服装はセーラー服ではなくブレザーになってますが……。)主演は小田切理紗。映画『呪怨』やテレビドラマ「サラリーマン金太郎4」に出演していたらしいが、僕はまったく印象に残っていない。もちろん今回の映画が初主演。いわゆる「美形」とは違う個性的な顔だし、演技力もほとんどゼロという感じなのだが、この映画の中では光っている。これからの努力次第では、ひょっとすると大化けするかもしれない。

 幼い頃に母を亡くした遠山ユカは父親とふたり暮らし。彼女の初恋は9歳の時。父親を訪ねてきた大学講師の井上に、ユカは一目惚れしてしまう。だが彼は従姉妹の理恵子の夫だった。井上への気持ちを胸の奥に秘めたユカが16歳になった頃、井上と理恵子がユカの家のすぐ近くに引っ越してくることになった。なんとか井上に接近しようと試みるユカだったが、彼は高校生のユカをまるで子供扱いで相手にしない。だがある日ユカは見てしまった。井上が自分とさして年の変わらぬ少女に誘われるまま、ラブホテルに消えていく姿を。井上に愛されたい、愛されないまでもせめて抱かれたいと思い詰めるユカは、井上に自分が見たことを話すのだが……。

 ユカを演じる小田切理紗がほとんど駆け出しの新人なのに対し、周囲の俳優はベテランで固めてある。ユカの父を演じるのは下元史朗。井上を演じるのは舞台を中心に活動している田谷淳。その妻・理恵子を演じるのは数多くのピンク映画に出演している里見遥子。新人をベテランが盛り立てるという、手堅い手法がうまく機能している。キャスティングで上手いと思ったのは、ヒロインが恋い焦がれる井上という男が、まったく冴えたところのないつまらない男だという点だ。仕事ができるわけではない。ハンサムなわけでも、女性にもてるわけでもない。聖人君子でもないし、かといってアウトローの臭いがするわけでもない。どこにでもいる平凡な男。それが井上。彼がカッコイイ男だと、この映画はまったく別の物語になってしまうと思う。

 要するにヒロインは、井上の瞳の中に映った自分自身に恋しているのだ。ユカにとって井上は、自分自身の恋心を映し出す鏡になっている。ユカは井上に恋しているようでいて、じつは井上を通して自分自身を見つめているに過ぎない。井上はユカ本人を映す鏡として選ばれてしまったわけだが、そもそも9歳のユカに向かって「僕の目を鏡にしてごらん」と言ったのは井上だ。だが井上自身は、そんなことをとっくに忘れている。これは究極のすれ違いだ。

7月上旬公開予定 ユーロスペース
配給:ユーロスペース 宣伝:イメージリングス
2004年|1時間28分|日本|カラー|DV|ビスタサイズ
関連ホームページ:http://www.eurospace.co.jp/
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