シルミド

SILMIDO

2004/04/28 東映第1試写室
1971年に韓国で起きた事件を映画化したアクション大作。
終盤のクライマックスに力がない。by K. Hattori

 1968年。パク・チョンヒ大統領暗殺の命を受けた北朝鮮の武装特殊部隊が韓国に侵入し、大統領府近くまで接近して警官隊と大規模な銃撃戦を行う事件が起きた。韓国政府は北朝鮮への対抗措置として、キム・イルソン暗殺を目指す特殊部隊の訓練に入る。インチョン沖のシルミ島に集められた31人の男たちは、連日の過酷な訓練で一撃必殺の暗殺部隊へと練り上げられる。だが北朝鮮との宥和政策に転じた韓国政府は、キム・イルソン暗殺計画を撤回。計画が外部に漏れることを恐れた政府は、シルミ島の暗殺部隊を闇から闇に葬ることを決定するのだった……。

 1973年に起きた特殊部隊兵士の反乱事件を、事実に基づいて映画化した作品。韓国では1200万人が劇場に足を運んだという大ヒット作だ。映画の中では舞台の兵士たちが死刑囚やヤクザという社会のはみ出しものという設定になっているが、実際の684部隊は映画のようなアウトロー部隊ではなく、ほとんどが一般市民からの徴募兵だったらしい。映画は事実に基づいてはいるが、アクション・ドラマとして事実を脚色している点も多いのだろう。684部隊の遺族の中には、兵士が犯罪者として描かれたことに腹を立てている人もいる。だがこうした作品によって忘れられていた歴史の裏側にスポットライトがあてられれば、映画に描かれていない「真実」を調べようという人も現れるのではないだろうか。

 僕は映画にもとになった事件についてまったく知らないのだが、この映画については少し釈然としないものも残った。暗殺計画が突然中止された684部隊の兵士たちが、「北朝鮮に送ってくれ」と言うのはわかる。暗殺計画が宙に浮いたことで、部隊を抹殺しようと言う国家の冷酷さもわかる。わからないのはその後島を脱出した部隊が、北朝鮮ではなく、ソウルの大統領府に向かうことだ。彼らは大統領府で何をしようとしていたのだろう。大統領に何を訴えたかったのだろう。

 知っての通り、現在の韓国は北朝鮮に対して「太陽政策」という宥和主義で対峙している。そして映画の中の韓国政府も、北朝鮮に対して宥和政策を取っているのだ。その中で主人公たちが叫ぶ言葉が「北朝鮮でキム・イルソンの首を取らせてくれ!」だったりする。映画に描かれた事件は30年以上も前のものだが、この映画に現代の韓国人が何らかの共感を持つとするのなら、その背後には自国の対北朝鮮政策に対する割り切れなさや欲求不満が隠れているのではないだろうか。

 映画は兵士たちが島を脱出するまではじつに面白いのだが、彼らがバスを乗っ取ってからは幾分テンションが下がる。彼らの目的がこちらにうまく伝わってこないので、怒鳴り声と涙と血糊に塗りたくられたむき出しの感情ばかりが虚しく空回りしてしまうのだ。観客の涙を絞らなければならないクライマックスで、観ている僕は気持ちが少しずつ冷めていくのを感じた。

(原題:実尾島)

6月5日公開予定 丸の内東映他・全国東映系
配給:東映
2003年|2時間15分|韓国|カラー|スコープサイズ
関連ホームページ:http://www.silmido-movie.jp/
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