家族のかたち

2004/03/25 メディアボックス試写室
同棲中の恋人の元夫が彼女を取り戻そうと町に戻ってきた。
はたして彼女の心はどちらに……。by K. Hattori

 原題は『Once Upon a Time in the Midlands』だが、「むかしむかしミッドランドに……」という話ではなく、これは現代の物語だ。タイトルはセルジオ・レオーネの大作西部劇『ウエスタン』(英題は『Once Upon a Time in the West』)のパロディ。流れ者の男が、長く留守にしていた故郷の町に戻ってくる。一度は捨てた妻と子のもとで、人生を一からやり直すつもりなのだ。だがそこには妻と暮らす別の男がいる。子供もその男になついている。流れ者の男は妻と子を取り戻すため、自分の誠意を示す精一杯の努力と我慢をするのだが……、というお話。

 監督のシェーン・メドウスが脚本家のポール・フレイザーと飲んでいた時、酒飲み同士のバカ話として『Once Upon a Time in the Midlands』というタイトルを思いついたのがそもそもの発端。勢いに任せてプロットまででっち上げたところ、瓢箪から駒でそれが実現したものらしい。最初は「殺人の罪で服役していたボクサーが妻子のもとに戻ろうとするが、そこには既に別の男が……」というシリアスな話を考えていたが、発想を逆転して「好きな女とその連れ子と仲良く暮らしていた真面目な男のもとに、彼女の別れた亭主が戻ってくる」という話になり、すっかりコメディになってしまったという。

 主演は「妻子を捨てた流れ者の男」にロバート・カーライル。恋人の元夫の出現にパニックを起こす主人公にリス・エヴァンス。ふたりの男の熱愛の間で揺れ動くヒロインを演じるのは、大ヒット作『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で嘆きのマートルを演じていたシャーリー・ヘンダーソン。監督のシェーン・メドウスはボブ・ホスキンス主演のシリアスで地味な社会派作品『トゥエンティフォー・セブン』が日本でも公開されているが、僕はあまり好きになれなかった。でも今回の映画はいい。観ていて楽しいこと請け合いだ。

 登場人物たちは特別な人たちではなく、日常の中の些細な出来事に喜びや悲しみを感じるごく普通の人々だ。ただし登場人物の多くが、短気でおっちょこちょい。大悪人こそいないものの、何かしらちょっとずつ欠点を持つ人たちでもある。物語の舞台がさほど裕福な家庭ではないということもあり、彼らはまるで落語に登場する長屋の住人たちのようだ。大人たちがみんな欠点だらけなのに、子供がみょうにしっかりしているのも落語的。

 ロバート・カーライルとリス・エヴァンスは「悪気のないダメ男」を演じさせると天下一品の俳優同士だが、そのふたりが入れ代わり立ち代わり「ダメ男」の存在感をアピールするのだからたまらない。硬派なアウトロー風の登場をしたカーライルが、そこはかとないダメっぽさを発散しながら、ダメダメ街道の下り坂を一目散に転げ落ちていくくだりは最高にいい味出してます。

(原題:Once Upon a Time in the Midlands)

初夏公開予定 シャンテ・シネ
配給:クレストインターナショナル
2002年|1時間44分|イギリス|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.crest-inter.co.jp/
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