H[エイチ]

2004/03/09 メディアボックス試写室
連続殺人の犯人は刑務所の中の死刑囚なのか……?
韓国製のサスペンス・スリラー映画。by K. Hattori

 『羊たちの沈黙』と『セブン』を足して2で割ったような、韓国製のサスペンス・スリラー映画。ゴミ処分場で発見された女子高生の腐乱死体。そのすぐそばには、死体の腹から引きずり出された胎児の死体が転がっていた。やがてバスの中で妊婦が殺害され、腹を十文字に切り裂かれるという事件が起きる。警察はこれらの事件を同一犯による犯行と判断。なぜならまったく同じような事件が、1年前にも起きていたからだ。ただしその犯人シン・ヒョンは6件の連続殺人の後で自首し、現在は死刑囚として刑務所に収監されている。今回の犯人はシン・ヒョンを崇拝する模倣犯なのか。それともシン・ヒョン本人が刑務所の中から、犯人に何らかの指示を出しているのか。捜査を担当する女性刑事キム・ミヨンと同僚のカン・テヒョンは、獄中のシン・ヒョンに面会するのだが……。

 監督・脚本はこれが長編デビュー作のイ・ジョンヒョク。世界中で大ヒットするハリウッド製の猟奇犯罪映画を、現代の韓国に移植しようとする意欲は買う。だがミステリー映画としては、アイデアに目新しさがない上に筋運びがかなり強引。切り裂かれた妊婦の腹からはみ出した胎児の足がピクピク動くとか、耳を切断したり首を切り裂くといった直接的残酷描写にリアリティは感じられるが、映画の恐さというのはこうしたビジュアル面ではなく、事態がなぜそこに至ってしまったかというプロセスにあるのだ。観客が知りたいのは事件の残酷さではなく、犯人がそうした殺人を通して何を訴えかけようとしているかという部分にある。それがどんなに独りよがりなものでも、どんなに異常なものでも、そこに「犯人なりに筋の通った理屈」があれば、観客はそれに納得できるのだ。

 この映画はそうした「犯人なりの理屈」が、少々おろそかになっているように思う。犯行周期と被害女性の関係など、映画の中で一応は説明されているのだが、それが連続殺人という凶悪犯罪になぜつながらねばならなかったのかがわからない。死刑囚シン・ヒョンから始まる殺人の連鎖が、どこかで止まるのか、それともこの映画の終わりの部分で行き止まりになってしまうのか。それも映画を観ていて腑に落ちない。キム・ミヨンの婚約者が自殺してしまったのはなぜなのか。ミヨンは映画の最後に、なぜあのような行動を取らねばならなかったのか。人間の命がかかった肝心な部分で、この映画は雰囲気だけで物語を先に進めていこうとしている。

 僕は映画を観ていて、遅刻常習犯で先輩刑事たちにも礼儀知らずなカン・テヒョンが好きになれなかったし、終始無表情な上に周囲に事情を説明しようとしないキム・ミヨンにも魅力を感じることができなかった。登場人物たちに、もう少し共感できるところがないと、こうした物語は成立しないと思う。『セブン』はその点で、定番の「ベテラン刑事と若い刑事」というキャラクターを踏まえていたもんね。

(原題:H)

3月20日公開予定 シネセゾン渋谷(レイト)
配給:GAGAアジアグループ、アニープラネット 宣伝:アニープラネット
2002年|1時間46分|韓国|カラー|シネスコ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.h-movie.jp/
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