パピヨンの贈りもの

2004/01/26 メディアボックス試写室
一人暮らしの老人が近所の8歳の少女と幻の蝶を探す旅へ。
主役ふたりがチャーミングな、現代版「青い鳥」。by K. Hattori


 パリのアパートで一人暮らしをしているジュリアンは、蝶の収集が趣味の元時計修理工。最近ではすっかり仕事も引退して、もっぱら蝶集めの趣味に没頭している。彼がいつか手に入れたいと願っているのが、ヨーロッパでもっとも美しいと言われているイザベラ。だがそのチャンスはなかなか巡ってこない。ある日意を決してイザベラ探しに出かけることにしたジュリアンは、車に予期せぬ同乗者が乗り込んでいたことに気づいて面食らう。それはつい最近階上の部屋に越してきた、8歳の女の子エルザだった。母親が仕事で留守がちの彼女は、好奇心と冒険心からジュリアンの旅に同行しようと決めたのだ。ジュリアンはエルザの母に連絡しようとするが電話はつながらない。やむを得ず彼はエルザを連れて旅を続けることにしたのだが……。

 ジュリアンを演じているのはミシェル・セロー。エルザを演じているのはこの映画がデビュー作だというクレール・ブアニッシュだが、彼女は子役声優としてこれまでに『サイン』や『千と千尋の神隠し』のフランス語吹き替え版を担当しているという。特別な美少女というわけではないが、その「普通さ」がこの映画の中では生きている。どんな街角にでもいそういなごく普通の女の子が、やがてジュリアン老人にとっても、映画を観ている観客にとっても、かけがえのない特別な女の子に変化していくのだ。

 映画ではジュリアン老人がなぜ幻の蝶を求めているのかがひとつのミステリーになり、「何があったの?」という好奇心から観客を物語の中に引き込んでいく。一方で観客はエルザの行動の危なっかしさにハラハラドキドキさせられ、「これからどうなる?」という関心から画面に目が釘付けになる。「何があったの?」という過去に対する好奇心と、「これからどうなる?」という未来に対する関心とが、この映画の力強い牽引車だ。しかもそれを、詩情たっぷりの映像で描いていくコンパクトな1時間半。老人と子供の無邪気な冒険が、子供の行方不明と誘拐疑惑として大騒ぎを引き起こす滑稽さ。この脚本はなかなか上手くできている。

 登場人物に悪人がいないのがいい。主人公たちはそれぞれ心の中に問題を抱えているが、それらは冒険の旅の末に解決していく。追い求めても見つからなかった幻の蝶はどこにいるか? 映画を最後まで観ると、これは幸せの青い鳥を探すチルチルとミチルの物語に似ていることに気が付く。本当の幸せは、我が家のすぐ近くにある。本当の幸せは、身近なところに隠されている愛の中にある。

 少女がたどたどしく歌うピアフの「愛の賛歌」がチャーミングだと思ったら、エンドロールではそれ以上に可愛い主人公たちふたりのデュエットが聴ける。これがまた可愛い。ミシェル・セローの照れくさそうな笑顔が見えるようで、こちらまでニコニコしちゃいます。1時間半に満たないコンパクトな映画。それでいてこの充実度!

(原題:Le Papillon)

4月公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:東京テアトル 問い合わせ・宣伝:樂舎
2002年|1時間25分|フランス|カラー|ビスタサイズ|ドルビーSRD
関連ホームページ:
http://www.cinemabox.com/

DVD:パピヨンの贈りもの
関連DVD:フィリップ・ミュイル監督
関連DVD:ミシェル・セロー
関連DVD:クレール・ブアニッシュ
関連DVD:ナドゥ・ディウ

ホームページ

ホームページへ