ヘブン・アンド・アース

2004/01/22 ソニー・ピクチャーズ試写室
7世紀末の中国を舞台にした西部劇。アクションシーンは最高。
物語をもう少し整理すると大傑作になった。by K. Hattori


 西暦700年の中国・唐の時代。25年前に遣唐使として唐に渡り、文武を学んで一流の剣客となった来栖旅人(くるすたびと)という日本人がいた。宮廷で彼に与えられた任務は、皇帝の命を受けて謀反人や犯罪者を処刑すること。故郷日本への帰国を願う彼に最後に下された命令は、皇帝に背いて西域に逃れた元軍人・李隊長の誅殺だった。だが西域で彼を待っていたのは、皇帝に献上するため天竺から唐へ経典や仏具を運ぶキャラバン隊を、仲間たちと護衛している李と部下たちだった。来栖は経典を無事長安の都に運ぶことを優先して、彼自身もキャラバン隊に随行することになった。やがて剣を交える敵同士が、ひとつの任務のために旅の道連れ。だがそんな彼らに、西域一帯を荒らし回る馬賊の群れが襲いかかる。彼らは西域のトルコ系民族・突厥に依頼されて、キャラバンが運んでいるある貴重な荷物を手に入れようとしていたのだ……。

 中国を舞台にした壮大なウェスタン・アクション。舞台になっているのが中国の西部だから西部劇だと言っているわけではなく、この映画は作り手が西部劇を意識しているのが明らかなのだ。見渡す限り砂と岩ばかりの、赤茶けて乾燥しきった風土。グランドキャニオンを連想させる渓谷。ラクダの群れを連れて長い旅をする男たちの姿は、キャトルドライブ(牛追い)をするカウボーイのようにも見える。護衛の兵を失って丸裸になったキャラバンを守ろうと李隊長が人手を集める場面は『荒野の七人』で、皇帝の刺客・来栖旅人の黒ずくめのコスチュームは『シェーン』でジャック・パランスが演じた殺し屋のようだ。キャラバンを執拗に追う馬賊は、駅馬車を遅うインディアンの群れ。クライマックスはアラモ砦の攻防戦だろうか。

 最近の中国アクション映画といえば、ワイヤーで人間を宙づりにして変幻自在の華麗な立ち回りを見せるものが多い。しかしアメリカの西部劇を中国に翻案したようなこの映画では、そうした荒唐無稽なアクションはほとんど見られない。活劇のダイナミズムを生み出しているのは、走り回る馬や人間たちの生身の肉体だ。ラクダ隊が馬賊に襲われて渓谷に逃げ込み、狭い通路に敵を追い込んで倒していくシーンなどは、まるで黒澤明の『七人の侍』ばりの興奮とスリル。この映画では人間を宙づりにすることはないが、カメラは自由自在に三次元を動き回る。人間の視線の高さからあっという間にカメラが上空に舞い上がり、乱闘シーンを真俯瞰からとらえるシーンのゾクゾクするような視覚的快感!

 2時間弱の映画にあれこれ盛り込みすぎて、少し消化不良を起こしているのは残念。物語の骨組みをもっとシンプルにして、最後は爽快なハッピーエンドにしてほしかった。主人公たちが絶体絶命になったところで、『駅馬車』の騎兵隊のごとく皇帝の軍団が地平線から現れるとかね。どうせマンガみたいな話なんだから、最後はスカッ!とさせてよ。

(原題:Warriours of Heaven and Earth 天地英雄)

2月21日公開予定 ニュー東宝シネマ他・全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント 宣伝:メディア・スーツ
2003年|1時間58分|中国|カラー|スコープ・サイズ|ドルビー・デジタル、SDDS
関連ホームページ:
http://www.sonypictures.jp/movies/heavenandearth/

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