イン・ザ・カット

2004/01/09 GAGA試写室
ジェーン・カンピオン監督がメグ・ライアン主演で撮ったサスペンス。
ジャンル映画としてはやや中途半端な印象。by K. Hattori


 スザンナ・ムーアのミステリー小説「スペードの誘惑」を、ジェーン・カンピオンが脚色・監督したサスペンス・スリラー映画。原作者のムーア本人が、脚本執筆にもタッチしているようだ。(プレス資料では「スペードの誘惑」と「イン・ザ・カット」が別の作品のように紹介されているが、これは同じ本のことです。)製作はカンピオンの『ある貴婦人の肖像』に出演経験があるニコール・キッドマンと、独立系女性プロデューサーのローリー・パーカー。主演は自分について回る「ロマコメの女王」というイメージを、必死で脱しようとしているメグ・ライアン。主人公の妹役にはジェニファー・ジェイソン・リー。

 大学で英文学を教えているフラニーは学生と出かけたバーの地下で、女にオーラルセックスさせている男の姿を見かける。暗がりで顔は見えなかったが、男の手首にあったスペードの刺青がフラニーの記憶に残った。それから間もなくして、フラニーのアパートを殺人課のマロイ刑事が訪ねてくる。アパートの裏で切断された女性の首が見つかったというのだ。だがフラニーの興味を引いたのは、マロイ刑事の手首にあるスペードの刺青だった。この真面目そうな刑事こそ、バーの地下で女にいかがわしい行為をさせていた張本人。だが首を切断された犠牲者がバーの地下で彼と一緒にいた女だと知って、フラニーの心は揺れ動く。マロイはとぼけているが、彼が女を殺したのではないのか? そんな疑惑を持ちながらも、フラニーはどうしようもなくマロイに惹きつけられていくのだった……。

 孤独なヒロインが殺人事件に巻き込まれていく典型的なサスペンス・スリラーだが、テーマを「犯人捜し」に置かず、危険な男に惹かれていくヒロインの心理に置いているのが特徴。これは「殺人事件の物語」ではなく、「ヒロインの愛とセックスの物語」なのだ。ただし映画の枠組みそのものはサスペンス・スリラーというジャンル映画の定型をなぞっているため、怪しげな振る舞いをするケヴィン・ベーコンや黒人学生の言動などに、犯人捜しの面で観客を煙に巻こうという目論見が垣間見えてしまう。最後にヒロインの周辺にまで犯人が迫ってくるというのも、この手のジャンル映画の定型そのものだ。

 こうした定型に引きずられる様子は、この映画をやや中途半端なものにしてしまったかもしれない。ヒロインを最後まで物語の外側に置いて、彼女と刑事の危険な関係にだけストーリーを絞り込んでいった方が、映画作品としての完成度は上がったに違いない。ただしこうしてジャンル映画の定型を守ることで、観客に対する作品の間口が広がっているのは確かだ。これまでジェーン・カンピオンの作品など観たこともなかった人たちが、「メグ・ライアン主演のサスペンス映画」として、この映画に足を運ぶことは十分に考えられる。文芸作で名をはせた女流映画監督の大衆化路線がこの映画なのだ。

(原題:In the cut)

4月公開予定 丸の内ピカデリー2他・全国松竹東急系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2003年|1時間59分|オーストラリア、アメリカ、イギリス)
関連ホームページ:
http://www.inthecut.jp/

DVD:イン・ザ・カット
原作:イン・ザ・カット(スザンナ・ムーア)
原作洋書:In the cut (Susanna Moore)
関連DVD:ジェーン・カンピオン監督
関連DVD:メグ・ライアン
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