悪霊喰い

2004/01/07 松竹試写室
カトリックの異端として伝えられた「罪食い」の儀式とは?
ヒース・レジャー主演のオカルト・スリラー。by K. Hattori


 監督・脚本がブライアン・ヘルゲランド、主演がヒース・レジャー、共演者にマーク・アディ、シャニン・ソサモンという、『ロック・ユー!』とまったく同じメンバーで作られたオカルト・スリラー映画。ニューヨークの小さな教会の司祭アレックスに、恩師ドミニクが不自然な死を遂げたとの知らせが入る。じつはアレックスの属する修道会はカトリック教会の中でも異端すれすれとみなされており、恩師ドミニクは異端宣告を受けて教会を追放されていたのだ。そのドミニクは死の直前に、「罪食い」と呼ばれる異端の秘蹟(サクラメント)を受けていたらしい。異端として教会から追放されている者たちの罪を食らい、死者を罪から解放する「罪食い」とは一体どんな儀式なのか。ドミニクの死を調べていたレックスは、ローマで「罪食い」の儀式を行った男と出会うことになる……。

 「罪食い」というのはカトリック教会が聖俗両面で絶大な権力を持っていた中世ヨーロッパに生まれた制度で、教会から破門宣告を受けて司祭から正式の臨終の秘蹟を受けられない信者が、それに替わる秘蹟として「罪食い」に自分の罪を食べてもらうというものらしい。天国と地獄が現実のものとして信じられていた時代に、「罪食い」は破門者の魂を救う最後のよりどころだったのだ。しかしそれが現代に必要なのか? 熱心なカトリックの信者の中には、それを必要だと感じる人がいるかもしれない。でも天国も地獄も比喩としてしか受け入れていない、一般の人にとって「罪食い」は不要だろう。「罪食い」がいてもいなくても、それはあくまで個人の魂の救済の問題であって、社会全体とは何の関わりもないではないか。映画を観ているほとんどの人には、まるで無関係な話だ。

 映画の中では「罪食い」の特徴として、特別な剣を使わなければ死なない不死身の身体と、罪と共に取り込んだ膨大な知識の集積を付け加えている。劇中に登場する「罪食い」の男は、なんとルネサンス時代から生き続けているのだ。「罪食い」はまぎれもない人間だが、不滅の肉体と人間離れした知識という点では人間よりも神に近い。この部分を拡大していけば、もっと面白いドラマを作れると思うのだけれど……。

 この映画は最後に「必殺仕掛人」のような勧善懲悪ドラマになってしまう。「罪食い」の力を身につけた男は、その力を使って悪人を懲らしめるのだ。案外この監督はこのラストシーンから、「罪食い」というキャラクターを使った別のストーリー展開を考えているのかもしれない。「罪食い」を主人公にしてミステリーとオカルトがからみ合った新しいテレビシリーズを作れば、「X-ファイル」の後釜企画としてはピッタリかも。ヘルゲランド監督が新番組の企画としてフォックスに持ち込んだパイロット版だと考えると、この中途半端なオカルト映画もなんとなくしっくりする。でも1作目がこれじゃ、シリーズかは無理かな。

(原題:The Order)

1月24日公開予定 新宿ジョイシネマ3、シネマメディアージュ
配給:20世紀フォックス、アートポート 宣伝:アートポート
(2003年|1時間42分|アメリカ)
関連ホームページ:
http://www.emovie.ne.jp/akuryogui/

DVD:悪霊喰い
サントラCD:The Order
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