みんなのうた

2003/12/03 ワーナー試写室
30年前のフォークブームを担ったグループが再結成してコンサート。
クリストファー・ゲスト監督のパロディ・ドキュメンタリー。by K. Hattori


 1960年代に一大フォークブームを巻き起こした、大物音楽プロデューサーが死んだ。プロデューサーの息子は亡き父を偲ぶイベントとして、往年の人気フォークグループを集めたコンサートを企画する。声をかけられたのは、現在も遊園地のアトラクションなどで活動している「ザ・ニュー・メイン・ストリート・シンガーズ」、3人組の男性グループ「ザ・フォークスメン」、そして全盛期にはカリスマ的な人気を誇った男女デュオ「ミッチ&ミッキー」。売り込みの甲斐あって、コンサートのテレビ放送も決まった。かくしてフォークブームが去った後それぞれの道を歩いていた人々が、30数年ぶりに脚光を浴びその日がやってくるのだが……。

 監督・脚本はドキュメンタリー風の映画『ドッグ・ショー』で、ドッグコンテストの世界をリアルに描いたクリストファー・ゲスト。出演者やスタッフは『ドッグ・ショー』とかなり重なり合っている。ゲスト監督の映画は全体の流れと場面設定だけを作っておいて、俳優たちが即興でそのシーンを演じるというもの。その間カメラは回しっぱなしで、最終的に10数時間分の素材を作ってから、編集して1時間半にまとめるのだという。要するに映画全体はフィクションだが、個々のシーンは即興をそのまま撮影するドキュメントで、編集作業もドキュメンタリーと同じというわけ。こうしたゲスト流の演出術を実行するには、劇団のように毎回同じようなメンバーで映画を作る方が効率がいいのだろう。

 この映画では劇中の歌と演奏も俳優たち本人がやっているというのだけれど、歌はともかく演奏は吹き替えだと思う。楽曲はすべてオリジナルで、監督らが往年のフォークの名曲を参考にして作ったものだという。いかにもそれらしいメロディやハーモニー。原題にもなっている「A Mighty Wind」を最後にコンサートで大合唱するシーンなど、映画を観ているこちらまでリズムに合わせて身体が動いてしまう。フォークを題材にしたパロディ映画でありながら、作り手がじつはフォークが大好きというのがよく伝わってくる映画なのだ。フォークが好きな人も、フォークを小馬鹿にする人も、これは楽しめると思う。

 物語の中心は「ミッチ&ミッキー」のふたりが、互いに傷つけあって別れた心の傷をどうやって乗り越えていくかという点。30数年前のテレビ番組で交わしたキスが、再結成のコンサートで繰り返されて大拍手という展開は大喝采なのだが、同時にもの悲しくもある。ふたりが別々に過ごした30数年という時間が、ここではまったく無視されてしまっているからだ。この映画に登場するミュージシャンたちにとって、フォークブームは「ついこの前の出来事」なのだろう。彼らは自分たちが喝采を浴びていた30数年前の余韻の中で暮らしている。似たようなミュージシャンは、日本にも大勢いるよなぁ……。

(原題:A Mighty Wind)

2004年1月公開予定 ヴァージンシネマズ六本木ヒルズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
(2003年|1時間32分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.warnerbros.co.jp/

DVD:みんなのうた
サントラCD:A Mighty Wind
関連洋書:A Mighty Wind: The Illustrated Songbook
輸入ビデオ:A Mighty Wind
関連DVD:クリストファー・ゲスト監督

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