最後の恋,初めての恋

2003/11/27 松竹試写室
傷心の日本人ビジネスマンが上海で美しい姉妹に出会う。
語り足りない謎めいた部分が映画を損ねてしまった。by K. Hattori


 中国進出の拠点として、多くの日本企業が支社を置く上海。自動車メーカー勤務の早瀬高志は、そんな上海に大きな心の傷を抱えてやってきた。半年ほど前、恋人が交通事故死したのだ。早瀬は上海到着早々ホテルで自殺未遂騒ぎを起こし、病院に担ぎ込まれる。フロント係のファン・ミンという女性が、たまたま早瀬の異変を察知して病院まで付き添ってくれた。回復した早瀬は会社の命令で、大学で開催されているビジネスマン向けの中国語教室に通うことになる。講師を務めるのは日本語を学ぶ女子大生のリン。ミンの妹でもある彼女は早瀬に一目惚れするが、早瀬の気持ちは少しずつ姉のミンに惹かれていく……。

 主演は渡部篤郎。彼を巡って三角関係になる中国人姉妹を、『スパイシー・ラブスープ』のシュー・ジンレイと、『至福の時』のドン・ジェが演じている。撮影はほとんどが上海ロケ。『うつつ』の当摩寿史監督などスタッフのほとんどは日本人だが、制作には中国側もからんだ日中合作映画になっている。

 全体に丁寧に作られている映画だと思うし、やわらかく温もりを感じさせる映像なども申し分ない。ストーリーはシンプルでわかりやすく、登場人物たちのキャラクターもそれぞれ立っている。しかし甘ったるさが前面に出て、ドラマの芯に力強さが感じられないのは残念だ。これは映画の終盤になればなるほど顕著になる。

 日本にいた頃、早瀬の恋人は死んでいる。しかも彼女は早瀬の親友の車に乗っていたとき事故に遭っていて、ふたりはどうやら付き合っていたらしい。この事件が早瀬の心を深く傷つけているのは間違いない。しかしそれ以上の具体的なことが、映画からはまるで読み取れないのだ。早瀬の恋人が死んだのは事故だったのか、それとも心中だったのか。彼女はなぜ早瀬に気持ちを打ち明けることができないまま、ずるずると秘密の三角関係を続けていたのか。こうした事柄は、映画のどこかで明らかにしてほしかった。

 事故に至る経緯が知りたいのは、興味本位からではない。それが映画後半のドラマと、深く結びついていると思うからだ。日本で早瀬を傷つけた三角関係。上海ではその早瀬が、再び三角関係を作ってしまう。日本と上海で生まれたふたつの三角関係は早瀬の中で結びつき、愛についての真実を語りかけたのではないだろうか。それなしに早瀬が親友を許すことも、ミンと生きること決意することもあり得ない。早瀬の死んだ恋人の話は、この映画の作り手たちが考えている以上に大きな存在なのだ。しかしここではそれが描けていないため、早瀬が心の痛手を新しい恋でごまかしているようにも見えてしまう。

 映画からは早瀬の新しい愛にかける覚悟が伝わってこない。彼の気持ちがもっとダイレクトに伝わってくれば、映画のラストシーンはさらに感動的なものになっただろうに。脚本の微妙な問題だとは思うが、映画というのは難しいものです。

12月公開予定 シネスイッチ銀座、他
配給:松竹
(2003年|1時間58分|日本、中国)
ホームページ:
http://www.movie-eye.com/saigonokoi/

DVD:最後の恋,初めての恋
主題歌CD:僕ら(小田和正)
ノベライズ:最後の恋,初めての恋
関連DVD:当摩寿史監督
関連DVD:渡部篤郎
関連DVD:シュー・ジンレイ
関連DVD:ドン・ジエ (2)

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