油断大敵

2003/10/23 東宝試写室
男やもめの刑事とベテラン泥棒の奇妙な駆け引きと絆。
これがなんと実話。成島出監督のデビュー作。by K. Hattori


 妻を病気で失い、駐在所勤務から窃盗事件担当の刑事になった関川仁。刑事の仕事は24時間体制で、8歳になる一人娘の美咲と一緒に過ごす時間もめっきり減った。そんな彼がたまたま職質をかけた相手が、通称ネコこと猫田定吉という大泥棒。取調室でのらりくらりと質問をかわし、決して口を割らないネコ。しかしそんな彼が、素朴で飾り気のない仁に惚れ込んだ。「全部話すから、お前の手柄にしろ」とこれまでの罪状を洗いざらい語り出したネコ。だがそれは、ふたりの戦いの序章に過ぎなかった。一流の刑事に追われてこそ一流の泥棒の技も映えるというのがネコの持論。十年の実刑判決を受けた猫田は、「十年後にもう一度勝負だ。それまでに一流の泥棒刑事になれ」と仁に言い残して刑務所に入っていく。そして十年がたった……。

 原作は元警察官の飯塚訓が書いた「捕まえるヤツ 逃げるヤツ」(文庫題「油断大敵〜刑事部屋事件簿」)だが、物語のモデルになったのは元群馬県藤岡警察署長で、現在は同市の助役を務める関口敏という人物。ネコというあだ名の泥棒も実在し、ふたりの奇妙な関係はテレビのノンフィクション番組で紹介されたこともあるという。監督はこれがデビュー作となる成島出。男やもめの関川刑事を役所広司が演じ、一癖も二癖もある泥棒の猫田を柄本明が演じている。

 モデルになった実話と同じく、映画の舞台は群馬県に設定されている。映画のオープニングで、ちょっととぼけたマーチ風の音楽に合わせて群馬ののどかな風景が描写されたり、映画全編に群馬訛りがちりばめられたり……。こうしたローカル色が、この映画の大きな養分になっている。東京のように全国あちこちから寄り集まった人々が暮らす土地ではない、その土地に根っこを張って生きてきた人間の体臭と息づかい。それがこのドラマのバックボーンであり、刑事と泥棒の間に生まれた奇妙な友情と絆を観客に納得させるものになっている。

 成島監督は脚本家として数々の作品を手がけてきた人だが、この映画では音楽や音響に対する並々ならぬセンスを感じさせる。「オイッチニ、オイッチニ」という奇妙なおまじないもそうだし、主人公たちが夜道で歌う同様が祭ばやしとオーバーラップする場面や、取調室の風景が一転してネコの過去にフラッシュバックする場面なども秀逸。「中年刑事と初老の泥棒の人情話」を「妻に先立たれた男と一人娘成長」とからめながらじっくりとまとめた脚本は、今時の日本映画にしてはいかにも古典的で正攻法すぎるものにも思える。この古典的な脚本が最終的に現代日本映画のテンポを獲得しているとしたら、それはこの音楽的要素によるところが大きいのではないだろうか。

 脚本・芝居・演出の三拍子が揃った作品。チャカチャカしたノリや勢いでごまかすところのない、じっくりと練り上げられた大人の映画だ。成島監督の今後に期待。

2004年1月17日公開予定 有楽町スバル座
配給:ゼアリズエンタープライズ、ケングルーヴ
宣伝:ライスタウンカンパニー
(2003年|1時間50分|日本)
ホームページ:
http://www.yudantaiteki.com/

DVD:油断大敵
サントラCD:colors(ショーロ・クラブ)
原作:捕まえるヤツ 逃げるヤツ(飯塚訓)
原作文庫:油断大敵〜刑事部屋事件簿(飯塚訓)
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