パリ・ルーヴル美術館の秘密

2003/10/16 メディアボックス試写室
世界最大の美術館、パリ・ルーヴル美術館の舞台裏。
ルーヴルは小さな町を丸ごと抱え込んでいる。by K. Hattori


 手塚治虫がウォルト・ディズニーに招待されてカリフォルニアのディズニーランドを初めて訪問したとき、一番感心したのはテーマパークの下に張り巡らされた巨大な地下施設と、そこで働く人々の姿だったという話をどこかで読んだことがある。世界有数のエンターテインメント施設を支えているのは、目に見えないところでそれを動かすシステムと、文字通り縁の下の力持ちとして働く裏方の人々なのだ。来園者の目に見えるのは、巨大な施設の中のごく一部に過ぎない。この映画『パリ・ルーヴル美術館の秘密』を観ていて、そんなことを思い出した。

 監督は『音のない世界で』や『ぼくの好きな先生』のニコラ・フィリベール。製作されたのは1990年で、映画の中では80年代に行われたルーヴル美術館大改修の最終段階を記録している。内装工事が終わったばかりのがらんどうの空間に、倉庫から次々に展示品が運び込まれてくる。それをどう配置するのかという試行錯誤。壁一面を覆う巨大な絵画を、巻き取られていた太い柱からはずして広げ、木枠に張って壁に飾り付ける。やがて見えてくるのは、美術館で働くありとあらゆる専門職の集団だ。

 美術館にいるのは警備員や学芸員だけではない。貴重な美術品を修理・修復する人々、デリケートな展示品を掃除する人たち、室内装飾、電気工事、錠前師、指物師、庭師、メッキ職人、石工、物理学者、化学者、資料係、事務関係、消防士、職員食堂の料理人、さらには美術館中にあるアンティーク時計のネジを巻いて歩く人までいる。ルーヴル美術館の職員数はおよそ1,200人。ルーヴル美術館はそれだけで、ひとつの町のようなものだ。

 この映画にはナレーションが一切ない。美術館が新装オープンする前のあわただしい時期に、最小限のスタッフが美術館に入り込んで、ほとんどゲリラ的に撮影していたものらしい。もちろん無許可で撮影したわけではないが、撮影のための段取りなどはほとんどなくて、どのシーンもほぼ即興で撮られている。「美術館の映画」といっても、この映画には美術の説明はほとんどない。世界的に有名な収蔵品もちらちらと姿を見せるのだが、それすらすべて脇役だ。

 パリを訪れた観光客なら誰もが一度は訪問するルーヴル美術館。その規模の大きさと収蔵品の多さに、誰もが面食らい途方に暮れる。とてもではないけれど、観光コースで許された数時間では全部の部屋を見て回れない。しょうがないので、モナリザなど目玉の収蔵品だけを見て帰ってくることになる。だがこの映画でもわかるとおり、地味な展示品のひとつひとつ、展示室のひとつひとつに、ルーヴル美術館を支える職員たちの気持ちがこもっているのだから。この映画を観ればかつてルーヴルを訪れたことのある人は「また行きたい」と思うだろうし、まだ行ったことのない人も「さすがに世界のルーヴル美術館だ」と感心することだろう。

(原題:La Ville Louvre)

12月20日公開予定 ユーロスペース
配給:セテラ・インターナショナル
(1990年|1時間25分|フランス)
ホームページ:
http://www.cetera.co.jp/library/louvre.html

DVD:パリ・ルーヴル美術館の秘密
関連DVD:ニコラ・フィリベール監督

ホームページ

ホームページへ