ファム・ファタール

2003/09/17 日比谷映画
盗み出した宝石を独り占めしようとした女の運命は……。
レベッカ・ローミン=ステイモスの悪女ぶりがいい。by K. Hattori

 昔はスター監督だったのに、最近のハリウッドではまったく存在感を発揮できていないブライアン・デ・パルマ監督の新作。テクニックを全面に出して映画ファンを唸らせるような映画ではないけれど、すっかり手の中に入っているテクニックの数々をさりげなく披露しながらなめらかにストーリーを語っていくあたりはさすがデ・パルマ。昔のエネルギッシュなデ・パルマとは違う、いい意味で枯れた名人芸を観ることができる。

 赤絨毯に大勢のセレブが集まるフランスの映画祭会場から、高価なダイヤの装飾品が盗み出された。(上映中の映画はサンドリーヌ・ボネール主演の『イースト/ウエスト』。名作です。)だがモデルを誘惑して高価なダイヤを盗んだ女は、最後の土壇場で仲間を裏切り姿を消した。追っ手に殺されかけた女は自分とうりふたつの顔をした女に間違われて九死に一生を得ると、その女のパスポートと航空券を手にアメリカに渡る。それから7年後。女はアメリカ大使夫人として再びフランスに戻ってくる。だがそこには、消えた女を必死で探すかつての仲間たちが待ち構えていた……。

 ヒロインのロール(リリー)を演じているのは、『X-メン』で全身真っ青メイクのミスティークを演じているレベッカ・ローミン=ステイモス。アメリカ大使夫人となった彼女の写真を撮ろうと接近するパパラッチのニコラス・バルド役にはアントニオ・バンデラス。仲間を平気で裏切るヒロインが、いかにしてパパラッチの追跡をかわし、昔の仲間たちを出し抜くかが映画の見どころ。映画は2度3度とドンデン返しがあって、最後は「こんな手を今さら使うのか!」とあきれ返るような結末を迎える。これを下手な監督がやれば観客から「バカモノ!」と一喝されそうだけれど、デ・パルマがやるからにはその後に何かがあるだろうと思わせる。実際に何かがあるかどうかより、それとなく「このままじゃ済まないぞ」と思わせる雰囲気作りが上手いのだ。

 ヒロインのロールがフランス脱出の際にリリーと入れ替わるというのがこの映画序盤の見せ場だが、この入れ替わりの現場をあえて伏せてあるところがミソ。ロールは本当にリリーと入れ替わったのか? 入れ替わったと見えて、じつはロールは別の場所に逃げているのではないのか? そんな曖昧さが、ストーリーを先読みしたり裏読みしたりしたがる映画ファンをミスリードしていく。ロールとリリーの入れ替わりを観客が確信したとき、その観客は監督が仕掛けたもうひとつの罠にガッチリとはまり込んでいるのだ。

 映画導入部がゴージャスでリッチな雰囲気で始まったわりに、中盤以降は話が小さくなるという点が多少気になりはするが、そこはローミン=ステイモスの艶技でカバー。このあたりは『氷の微笑』のシャロン・ストーンを連想させた。ローミン=ステイモスの今後の活躍が期待できる映画だと思う。

(原題:Femme Fatale)

8月23日公開 日比谷映画他、全国東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画
(2002年|1時間55分|フランス、アメリカ)
ホームページ:
http://www.ffmovie.jp/

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サントラCD:ファム・ファタール
ノベライズ:ファム・ファタール
輸入ビデオ:Femme Fatale
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