“アイデンティティー”

2003/09/12 ソニー・ピクチャーズ試写室
モーテルに閉じ込められた人々が次々に殺されていく……。
よくある映画かと思いきや、思いがけない結果が。by K. Hattori

 死刑執行直前に新証拠が出現し、判事立会いのもとで再審理が行われることになった連続殺人犯。だがその夜は大雨で、地域の交通網がずたずたに寸断されていた。街道沿いの寂れたモーテルには、交通事故で重傷を負った女性と家族、彼女をはねた車の運転手と高慢な女優、道路封鎖で行き場を失ったカップルと若い女、そして護送中の連続殺人犯と警察官が閉じ込められてしまう。だがそこで起きた凄惨な殺人事件。なんと手錠で拘束されていたはずの護送犯が、まんまと逃げ出したのだ。女優の運転手で元警官だったエドは、犯人を護送してきた警官ロードと一緒に、逃げた連続殺人犯を追うのだが……。

 監督は『17歳のカルテ』のジェームズ・マンゴールド。元警官のエドをジョン・キューザックが演じ、警官のロードをレイ・リオッタが演じているが、他のキャストは無名と言ってもいいだろう。だがこの映画では登場するキャラクターの個性がきわめて的確に描かれており、観ていても人物同士を誤認するようなところがまったくない。これは脚本の上手さと、演出の巧みさによるものだと思う。

 面識のなかった他人同士が外部から遮断された環境に押し込められ、そこで大きな事件が起きる……というのは定番の設定。場合によっては新鮮味の感じられない、「いつものアレね」と見くびられそうな話だ。だがこの映画はそんなことを重々承知の上で、この設定を使いまわしている。雨のモーテルに大金を持った女が逃げてくるなんて、そりゃ『サイコ』でしょう。連続殺人鬼が徘徊している中で周囲から孤立すれば殺されるなんて、『13日の金曜日』などのホラー映画に必ず出てくる話じゃないの。こうしたエピソードが出てくると、擦れっ枯らしの映画ファンは鼻で笑って小馬鹿にする。「この話、僕は知ってますよ」というわけだ。

 でもこの映画はそうした映画ファンの思い込みを、中盤から後半にかけて根本からひっくり返す。「まさか、こんな話だったとは!」とびっくり仰天させられる。展開の意外性や方向性は『ジーパーズ・クリーパーズ』や『ビロウ』にも似ているのだが、この映画はそれよりももっとスマートで手並みが鮮やかだ。この映画にはまったくズルがない。「ミステリー映画はこういうもの」「サスペンス映画のプロットはこうなっている」という観客側の思い込みを上手に使って、当初からターゲットを定めた地点に向けて物語をまっすぐ進めていった結果がこの映画なんだと思う。

 映画を観ているときは紆余曲折のある複雑なドラマだと思えるのだが、映画を観終わると、これがじつにシンプルな物語であったことに気づく。「ああ、そういうことだったのか!」とすべてが腑に落ちる、ミステリー映画の快感が味わえるのだ。自分が一杯食わされていたことに気づいたときの心地よい驚き。一度最後の種明かしを観た後で、また最初から観たくなるような映画だ。

(原題:Identity)

10月25日公開予定 ニュー東宝シネマ他・全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(2003年|1時間30分|アメリカ)
ホームページ:
http://id-movie.jp/

DVD:アイデンティティー
サントラCD:アイデンティティー |Identity
ノベライズ:アイデンティティー
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