ハルク

2003/09/11 日劇3
人気アメコミの実写映画化だが全体にメリハリ不足。
キャラクターをもっと生かしてほしかった。by K. Hattori

 60年代に誕生したアメコミヒーローであり、70年代にはテレビシリーズ、80年代には何本かのテレビ映画も作られた人気キャラクター、ハルクが初めて映画になった。監督は『グリーン・デスティニー』のアン・リー。出演は『ブラックホーク・ダウン』のエリック・バナと、『ビューティフル・マインド』でアカデミー女優となったばかりのジェニファー・コネリー。主人公の父親役に大ベテランのニック・ノルティ。変身後の緑色の巨人ハルクはCGで描かれている。

 核兵器や生物化学兵器の攻撃に耐えられる兵士を作るため、遺伝子操作による人体改造意の研究をしていたデヴィッド・バナーは、自らの肉体を危険な人体実験の材料にしていた。だがその成果は彼の肉体ではなく、息子ブルースへと引き継がれた。その後ある事件が起きてバナー家は離散。成長したブルースは科学者になるが、実験設備の故障から大量のガンマ線を体に浴びてしまう。その時から、ブルースは怒りの発作に襲われると緑色の巨人に変身するようになってしまった……。

 ハルクはこの映画の主人公なのだが、本人はこの映画の中でほとんど何もしていない。ブルース・バナーは自分自身の肉体変化にただオロオロするばかりで、ひとたび怒りの発作に襲われるとあたり構わず周辺のものをぶち壊していくだけだ。物語を引っ張っていくのは、ハルクを取り囲む周辺人物たちの思惑であり、ハルク本人はその中心で台風の目のような空白地帯になっているように思う。

 愛するブルースを何とか普通の人間に戻そうと考えるベティ・ロス。ハルクの誕生を自分の研究成果だと考えるデヴィッド・バナー。ハルクの力を危険視して押さえ込もうとする軍や政府の関係者。逆にハルクを究極の生物兵器と考え、力を有効利用したいと考える軍産複合体の関係者。こうしてハルクは四方八方から引っ張られるわけだが、このあたりの政治力学が、映画の中でうまく整理されていないように感じた。敵や見方、善玉や悪玉を単純に色分けしないのはいいとしても、登場人物それぞれのポジションが曖昧になって、それぞれの人物がその時々に何をしたいのかがよくわからなくなっている。

 ブルースとベティの関係は一度終わったはずなのに、なぜハルクはベティのもとに戻ろうとするのか。ベティと父親の関係はなぜひどく険悪なのか。ベティとタルボットの過去の関係も中途半端にニオわせるだけだで、後半に生きてこない。アクションシーンはよくできていると思うし、コミックスのコマ割りを意識したであろう画面分割などの小技も面白い効果を生んでいると思うが、こうした映画ではキャラクターの輪郭をもっとはっきりと明確に描いたほうがドラマが生きてくるのではないだろうか。テーマのひとつに「父子関係」があるようだが、例えばそれを軸に脚本をブラッシュアップすると、キャラクターがもう少し生きてきたかもしれない。

(原題:Hulk)

8月2日公開 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:UIP
(2003年|2時間18分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.uipjapan.com/hulk/

DVD:ハルク
サントラCD:ハルク |Hulk
ノベライズ:ハルク
シナリオ洋書:The Hulk: The Illustrated Screenplay
輸入ビデオ:Hulk
関連DVD:アン・リー監督
関連DVD:エリック・バナ
関連DVD:ジェニファー・コネリー
関連DVD:ニック・ノルティ
関連DVD:超人ハルク

ホームページ

ホームページへ