シモーヌ

2003/09/05 GAGA試写室
映画に出演させたバーチャル女優が世界中の人気者になってしまう。
監督は『ガタカ』のアンドリュー・ニコル。主演はアル・パチーノ。by K. Hattori

 遺伝子操作による新たな階層社会の到来を描いた『ガタカ』で注目され、『トゥルーマン・ショー』の脚本も高く評価されたアンドリュー・ニコルの新作は、デジタル技術によって作られたバーチャル女優をモチーフに、人間とメディアの関係を描いたコメディ映画。この映画も『ガタカ』や『トゥルーマン・ショー』と同じように、「こんなことが近い将来起きるかも」と思わせるリアリティがある。

 映画作家としての才能を持ちながらヒットに恵まれないヴィクター・タランスキー監督は、監督人生を賭けた新作から主演女優が降板してしまったことで窮地に立たされる。代役を立てようにも適当な女優が見つからないし、追加撮影をするための費用もない。映画が製作中止になれば、タランスキーに次の映画を撮るチャンスはないだろう。そんな彼のもとに、映画マニアの天才プログラマーが届けたひとつのプログラム。それは映画監督のあらゆる注文に応える、究極のバーチャル俳優プログラムだった。タランスキーはバーチャル女優「シモーヌ」を作って映画を完成させるが、これが監督も予想しない大ヒット。シモーヌは一躍世界が注目するトップスターになってしまった……。

 劇中でギリシア神話の「ピグマリオン」が引用されているが、タランスキー監督はシモーヌに恋をするわけではない。しかし自分の作り出したシモーヌが注目を浴びるようになると、創造主である自分自身がシモーヌの人気に嫉妬するようになるのだ。虚構の存在であるはずのシモーヌは、周囲が大騒ぎをすることで人間としてのリアリティを主張し始める。タランスキーがホテルでシモーヌの滞在を偽装する描写は、ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』を連想させる。あれも架空のスパイに周囲が右往左往する物語だった。

 映画の核になるのはバーチャル俳優というアイデアだが、これはいずれ実現する技術のようにも思える。『スターウォーズ』の新3部作にはCGで作られた多くのキャラクターが登場するし、俳優の芝居のタイミングをデジタルで補正したりもしている。いずれはジャー・ジャー・ビンクスやヨーダだけでなく、普通の人間もCGに置き換えることが可能な技術ができる。この映画の中でタランスキーが言うように、人間が真贋を見分ける能力を技術が追い抜く日が来るだろう。

 『シモーヌ』は常にクスクス笑いっぱなしのコメディ映画だが、「人間にとって本物とは何か?」「真実とはいったい何なのか?」というテーマは結構深い。世界を動かしているのが壮大な虚構であり、その虚構を作り出した人もそれに振り回されて身動きが取れなくなるという物語から、英米の対イラク戦争にまつわる情報操作を連想することもできるだろう。バカバカしいお話と笑って済ませられる映画であると同時に、これはかなりディープなテーマを秘めている。やはりアンドリュー・ニコルはあなどれないのだ。

(原題:Simone)

9月13日公開予定 日劇3他・全国東宝洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給
(2002年|1時間57分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.simone.jp/

DVD:シモーヌ
サントラCD:シモーヌ Simone
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