天使の牙
B.T.A.

2003/08/01 ワーナー・ブラザース映画試写室
大沢在昌のベストセラーを映画化したサスペンス・アクション。
演出が脚本の弱点を乗り越えられなかった。by K. Hattori

 大沢在昌のベストセラー小説を、大沢たかおと佐田真由美主演で映画化したサスペンス・アクション映画。MDMA(エクスタシー)の数倍の作用を持つ新種の麻薬アフター・バーナーが蔓延し、大きな社会問題となっていた。その流通販売を独占する麻薬組織クラインとボスの君国(きみくに)を追う警視庁に、君国の愛人である神崎はつみという女から情報提供の電話があった。女性刑事河野明日香は彼女と接触することに成功するが、現場に突然現れた同僚で恋人の古芳(ふるよし)刑事が神崎はつみを突然射殺。明日香本人もクラインの殺し屋たちに銃撃されて瀕死の重傷を負った。警察と病院は緊急措置として、明日香の脳を脳死状態になった神崎はつみの肉体に移植。神崎はつみの肉体に生まれ変わった明日香は、秘密捜査官「アスカ」として君国の待つクラインに潜入することになる。

 映像的にはいろいろな工夫があるようにも見えるが、脚本の構成のまずさや演出のテンポの悪さ、設定のリアリティのなさが災いして、物語の中に入り込みにくい映画になっていると思う。そもそも脳移植という設定にリアリティが皆無だが、これは物語の大前提になる設定なので、この点についてはまぁ目をつぶってもいい。これは映画『フェイス/オフ』の顔面移植手術と同じだ。観客はこうした映画で、物語を成立させるための1,2ヶ所のウソになら目をつぶるものだ。しかし4ヶ所も5ヶ所も疑問点が出てくると、観客は物語のウソっぽさに白けてしまうのではないだろうか。

 麻薬組織クラインや君国の背景については、もう少し補足説明があったほうがリアリティは増すだろう。君国はアフター・バーナーの収益で膨大な富を手にしているのだが、新型麻薬の登場はここ数年の話だろう。彼は12歳のはつみをずいぶん前から囲いものにしていたわけだから、その頃から何かしらの犯罪に手を染めたり、自分の組織をこつこつ築いたりしていたわけだ。こうした君国の経歴にほんの少し触れてくれると、君国の持つ悪のパワーがより強調されたのではないだろうか。地下の秘密基地から部下に指示しているだけの悪の総帥なんて、発想が「仮面ライダー」と変わらないではないか。あまりにも子供じみている。

 警察内部の裏切り者は誰なのか。古芳はなぜはつみを撃ったのか。古芳のかつての同僚は、なぜ警察を裏切って君国の側についたのか。ひとつひとつの謎の輪郭がそもそも不明瞭で、回答が得られない疑問も多い。クラインの秘密基地をたったひとりで襲撃した古芳は、なぜ基地の場所がわかったのか。捕えられた古芳とアスカが長々と会話をしているシーンも長すぎて、それまでに多少は高まっていた緊張感がすっかり失せてしまう。これはふたりが出口を探して地下道をさまようシーンにすれば解決できるのに……。

 出演者はがんばっているんだけど、脚本と演出がこれではなぁ……。

8月中旬公開予定 渋谷東急他・全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
(2003年|1時間59分|日本)
ホームページ:
http://www.tenshinokiba.jp/

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DVD:天使の牙
サントラCD:天使の牙
主題歌CD:ノット・ゴナ・ゲット・アス(t.A.T.u.)
原作:天使の牙(大沢在昌)
原作続編:天使の爪(大沢在昌)
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