フォーン・ブース

2003/07/16 20世紀フォックス試写室
たまたま入った電話ボックスでライフルに狙われる恐怖。
ジョエル・シューマカー監督の名人芸的演出。by K. Hattori

 電話のベルが鳴れば、相手が誰だかわからなくても、とりあえず電話には出てしまう。これは現代人の身体に染み付いた習性のようなものだ。だがそんな何気ない習性が、ニューヨークでフリーのパブリシストをしているスチュ・シェパードを、地獄に突き落とすことになる。

 白昼のマンハッタン。たまたま入った公衆電話ボックスのベルが突然鳴り始めたとき、彼は何気なく受話器を取った。相手が誰かは不明。だが相手はスチュの仕事や私生活のことまでよく知っていた。仕事でスチュに恨みを持つ誰かが、腹いせにイタズラしているのか? やがて電話の相手は「電話を切ったり電話ボックスから離れたらライフルでお前を撃つ」とスチュを脅す。相手の言葉にウソではなかった。電話のライフル男は近くのチンピラを射殺する。到着した警官たちはスチュを犯人と決め付け、一斉に銃を突きつけて電話ボックスから出てくるように命じる。警官の命令に従わなければ、スチュは警官に撃たれてしまうだろう。だがボックスから出れば、スチュはライフルの餌食になってしまうのだ……。

 電話ボックスに閉じ込められてにっちもさっちも行かなくなるスチュを演じるのは、『ジャスティス』や『マイノリティ・リポート』のコリン・ファレル。脚本家で監督でもあるラリー・コーエンのオリジナル脚本を、『タイガーランド』でファレルと組んでいるジョエル・シューマカーが監督したサスペンス映画だ。この映画の面白さはまず脚本のアイデアにあるが、これだけでは舞台劇でも通用しそうなあまりにも小さい物語。場所が1点から動かないこの物語をスケールの大きなエンターテインメント作品に仕立てたのは、舞台演出の経験ももつシューマカー監督の功績だと思う。この監督は、ストーリーをどう料理すれば映画になるのかを熟知している。

 デジタルSFX満載の大型映画に食傷気味だっただけに、こうしたタイトなサスペンス映画をたまに観るとすごく面白い。周到に練られた脚本によって主人公をどんどん袋小路に追い込んでいく、いい意味での意地の悪さには感心してしまった。しかし僕はこの映画に盛り込まれた、「心に思うことも実際の行為も同じように罪だ」「その罪は公衆の面前で正直に告白されなければならない」というキリスト教的なモラルは不要だと思った。このモチーフを盛り込んだことで、映画はテーマがぼけてしまったように思う。

 主人公をもっと平凡で特徴のない男にしたほうが、この映画の恐さはより強調されたのではないだろうか。なんでもない凡庸な男が、偶然通りかかった電話ボックスで事件に出くわしたほうが、映画を観ている人に「ひょっとしたら俺も」という親近感がわくではないか。

 映画のアイデアは面白いし、犯人側の用意周到さや、警察との駆け引きなどの話も面白いと思う。ただし主人公の境遇や心理については、もう少し掘り下げてもよかった。

(原題:Phone Booth)

秋公開予定 東宝洋画系
配給:20世紀フォックス
(2003年|1時間21分|アメリカ)
ホームページ:
http://www.foxjapan.com/

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