ビタースウィート

2003/07/15 ソニー試写室
父親の浮気相手に復讐しようとした少女が生み出す悲劇。
少女たちは残酷な日常を今日も生きている。by K. Hattori

 17歳のカティとステフィは幼馴染の親友同士。目下の興味は、男の子と、オシャレと、夜遊びだ。だがある晩遊びに行ったクラブで、ふたりはとんでもないものを目撃してしまう。出張に出かけているはずのステフィの父親が、同僚の女性と浮気をしていたのだ。ステフィの頭にはカッと血が上る。ステフィは父の愛人に復讐しようと決意。とりあえず彼女の車に傷をつけたり、部屋の鍵穴にボンドを流し込むという子供じみた行為からスタートした復讐だったが、やがてそれはエスカレートして思いがけない悲劇を生み出すことに……。

 思春期の少女たちを主人公にしたガールムービー。主人公の少女たちを取り囲む現代ドイツの複雑な社会事情を丁寧に描いていて、憂鬱な気分にさせられてしまう場面も多いのだが、それでも映画全体が暗くならないのは若い出演者たち生き生きとした生命力のおかげだろう。両親の不仲、不倫、離婚、シングルマザー、子供の虐待、児童ポルノ、セックスの誘惑、アルコール、ドラッグ。10代の少女たちがこうした環境におかれているのは、おそらく先進国ならどこも同じなのではないだろうか。この映画はそのまま日本の話に翻案できそうだし、このままでも日本の若い女の子の共感を呼ぶのではないだろうか。

 脚本はなかなかよくできている。円満に見えた家庭がじつはその内部から蝕まれており、逆に完全に形骸化しているかに見えた家庭が内部ではしっかりとした絆で結ばれているという複雑さ。少女の復讐が少しずつエスカレートしていく様子も自然に描かれているし、主人公のひとりが復讐に取り付かれて自分を見失っていく過程も、事情を知る観客たちが同情できる範囲内に収められている。

 多くの観客はステフィの軽はずみな行動が生み出した結果に驚くだろう。だが一番驚いているのは彼女自身なのだ。彼女は自分の家庭を守りたかった。父を愛人に奪われることを恐怖した。本来なら不倫の責任は父親にある。だがステフィは自分の愛する父親を恨むことができない。そこで復讐の対象は相手の女性になる。しかしそこは子供の非力さ。復讐対象はさらに弱いところに向かって、彼女の娘をひどい目に合わせようと考える。自分が味わったのと同じ屈辱を、相手にも味わせなければ気がすまない。だがそんな気持ちから出た行動が、彼女自身の家庭を破壊してしまう。彼女が守ろうとした家庭は、彼女の行動によって粉々に砕け散ってしまうのだ。なんたる皮肉!

 映画のラストは一応ハッピーエンドと言えるだろう。だが彼女たちを取り囲む環境は、じつは何も変わっていない。傷ついた娘を前にして、ひょっとするとステフィの両親はよりを戻すかもしれない。だがそこには、かつてあった無条件の信頼と家族愛は存在しないのだ。修復できない現実。取り戻せない過去。そうした事実を受け入れながら、少女たちは大人になっていく。

(原題:GROSSE MADCEN WEINEN NICHT)

夏公開予定 シアター・イメージフォーラム、シネマメディアージュ
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 配給協力:メディアボックス
(2002年|1時間31分|ドイツ、アメリカ)
ホームページ:
http://www.spe.co.jp/movie/worldcinema/bittersweet/

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DVD:ビタースウィート
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