こぼれる月

2003/07/08 アテネ・フランセ文化センター
心の病に苦しむ若者たちの姿をリアルに描いた映画。
画面も内容も暗くて重い。でもいい映画。by K. Hattori

 主要登場人物は若い男女4人。その全員がどこかしら精神を病んでいる。ただしこの映画の中では、その病によって何か事件が起きるわけではない。病をいかにして克服していくかという映画でもない。精神を病んだ主人公たちが、いかにして自分の「今」を生きていくかが、この映画の中心テーマになっている。

 パニック障害で外出もままならない千鶴は、母親とふたり暮し。不意に襲ってくるパニック発作を恐れて薬を飲んではいるが、今では自分の部屋に閉じこもり、母親とも顔を合わせられない状態になっている。ある日千鶴は病院の帰り道、落とした携帯を拾ったゆたかという少年と親しくなる……。千鶴と同じ病院に通う高は、手洗いやミルク飲み、引き出しの開け閉めといった強迫行動から逃れられず、やはり自分の部屋からなかなか外に出られない。だが同棲中の恋人あかねは、そんな高を優しい目で見守っている……。

 映画の冒頭部分で千鶴と高がすれ違うだけで、物語は「千鶴と母とゆたかのエピソード」と「高とあかねのエピソード」が別々に進行していく。映画を観ている方はふたつのドラマがどこかで合流することを期待するのだが、この映画はあえてそうした方法を採らず、千鶴のエピソードと高のエピソードの相似を強調することで、主人公たちをどん底の状態から救済へと引き上げる。

 各エピソードの時間軸をバラバラにほぐし、フラッシュバックのように過去の事件を挿入していく手法がミステリアスな効果を生み出している。時折挿入されるゆたかの日常。そして映画も後半に差し掛かって、ようやく明らかにされるあかねの過去。この衝撃。そして、それまで映画を観ていてもモヤモヤと胸にわだかまっていたものが、スッと自然に流されていく瞬間に、観客は「そうだったのか!」とすべてが腑に落ちる。だがそこで待ち受けているのは、より大きな苦しみと悲しみなのだ。だが高の苦しみとあかねの苦しみの二重奏は、最後の最後に奇跡のような大逆転を見せる。

 全編がデジタルビデオで撮影されて、プロジェクターでの上映。画面が暗くてヌケが悪く、音声も不明瞭で台詞が時々聞き取れないのは非常に残念。映画のモヤモヤした雰囲気の大半は、この画面と音声の不明瞭さによるものだ。肝心なところで重要そうな台詞が聞き取れないのは、映画を観ていてかなりイライラさせられる。

 そうした欠点を持ちながらも、この映画はやっぱりスゴイ映画だと思う。特に千鶴役の岡元夕紀子は、『バウンスkoGALS』以来、ようやくこれぞという役にめぐり合えた感じ。これが映画デビュー作だというあかね役の目黒真希も、かなりの好印象だ。このふたりをはじめ、出演者全員が役の中に入り込み、芝居に乗っているのが伝わってくる。登場人物が全員病気で、しかも撮影条件も最悪の映画に、ついつい引き込まれていくのはそのためだ。坂牧良太監督の次回作に期待したい。

7月19日 ぴあフィルムフェスティバルにて上映
8月16日〜29日公開予定 シネマ下北沢(レイト)
配給:アルゴ・ピクチャーズ
(2003年|1時間58分|日本)
ホームページ:
http://tasunoke.com/

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