白百合クラブ東京へ行く

2003/06/24 シネカノン試写室
終戦直後に結成された沖縄の歌謡バンドが東京公演を行う。
さながら和製『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。by K. Hattori

 『ナビィの恋』の中江裕司監督によるドキュメンタリー映画。本作の主役は終戦直後の昭和21年に結成され、今も活動を続けている石垣島・白保の楽団「白百合クラブ」。楽団結成時にはメンバーも10代後半から20代だったものが、この映画の撮影が行われたときには結成56年目だから、メンバーもそれなりのお年になっている。構成人数は楽器担当、ボーカル、ダンサー、さらに司会者まで付いて、現在でも10数名が在籍中なのだ。
 
 この白百合クラブに惚れこんだのが、中江裕司監督とTHE BOOMの宮沢和史。「いっぺん東京で演奏してみたい」という白百合クラブの夢を小耳に挟んだこのふたりが、「よろしい、それなら協力しましょう!」と一肌脱いで実現したのが、昨年10月に鶯谷の東京キネマ倶楽部で行われた東京公演。この映画は東京公演に向けて準備をするメンバーたちの悪戦苦闘と、万雷の拍手で迎えられた東京公演の様子を軸に、白百合クラブの歴史とメンバーたちの人生を描写していく。涙あり笑いありの、心温まるドラマがそこにある。
 
 白百合クラブの演奏曲目は沖縄民謡ではない。演奏に三線や太鼓や笛といった伝統楽器が使われ、歌唱法やリズムが沖縄風にナチュラルにアレンジされてはいるものの、そこで取り上げられているのは昭和10年代から20年代の歌謡曲なのだ。「港横浜花売娘」「満州娘」「ロンドンの街角で」「さよなら港」「桑港のチャイナタウン」から「ラバウル小唄」まで。白百合クラブは東京に招いてくれた宮沢和史や、東京の若い観客に敬意を表して必死に「島唄」を練習したりもするのだが、歌詞もメロディも飲み込みが悪い。新しい曲がまったく覚えられないのだ。白百合クラブの時間は、昭和20年代で静止している。
 
 映画の最後にメンバーの一覧が出るのだが、入団年を見るとほとんどが昭和20年代で占められている。昭和21年にバンドが作られ、それから毎年続々と入団者が増えていくのだが、昭和29年にまとめて何人かの入団者を迎えた後は、10年ほど新規入団者不在の時期がある。おそらく欠員が出た分を補充する形で、数名ずつ新メンバーが入ったのではないだろうか。白百合クラブは今も「昭和20年代」を生きている。メンバーたちがまだ10代や20代だった青春時代を、音楽活動を通じて生き続けている。
 
 映画に登場するのは皆チャーミングなジイちゃんバアちゃんたちなのだが、彼らがステージに立っているとき、そこに「昭和20年代の青春」が自然と再現されるのだ。粗末な楽器を持ち寄って仲間の家や浜辺に集まり、いつまでも歌い踊った青春時代。白百合クラブの活動を通して、メンバーたちはいつまでも自分たちの「青春」を取り戻す。60になっても70になっても、ひとたび練習や演奏が始まればそこでは10代や20代の青少年やうら若き乙女に戻れるとは、なんと素晴らしいことなんでしょう!

7月19日公開予定 渋谷シネ・ラ・セット
配給:パナリ本舗、オフィス・シロウズ
(2003年|1時間30分|日本)
ホームページ:
http://www.shirous.com/shirayuri/

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DVD:白百合クラブ東京へ行く
関連書籍:白百合クラブ(中江裕司)
関連DVD:中江裕司監督
関連CD:島唄(THE BOOM)

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